- 鼻症状: 連続して起こる激しいくしゃみ、水のようにサラサラとした透明な鼻水、空気の通り道が塞がれる鼻づまり。
- 目症状: 強い目のかゆみや充血、涙が止まらないといった症状。
花粉症・アレルギー性鼻炎の治療法〜我慢しない春を迎えるために〜
毎年つらい花粉症の症状。「忙しいから市販薬でなんとか我慢している」「眠気をやり過ごしながら、シーズンが終わるのをただ耐えて待っている」という方も多いのではないでしょうか。
しかし、花粉症は決して我慢してやり過ごすしかない病気ではありません。医療機関で専門的な治療を受けることで、症状を大きく和らげ、さらには根本的な体質改善を目指すことも可能です。本記事では、花粉症に悩む患者さんへ向けて、どのような治療の選択肢があるのかを専門医の視点からわかりやすく解説いたします。
花粉症とは?(アレルギー性鼻炎の基礎)
花粉症は、体内に入ってきたスギやヒノキなどの花粉(アレルゲン)に対して、人間の免疫システムが過剰に防衛反応を起こすことによって引き起こされるアレルギー疾患です。
近年、飛散する花粉量の増加や、食生活の変化・ストレスによる免疫バランスの乱れなどにより、花粉症にお悩みの方は年々増え続けています。花粉症を「ただの季節的な不調」として放置すると、鼻づまりによる口呼吸が原因で風邪などの感染症にかかりやすくなったり、鼻の炎症が波及して気管支喘息を誘発・悪化させたりするリスクもあるため、適切な対応が必要です。
花粉症の主な症状
花粉症の症状は、アレルゲンが直接触れる部分に強く現れます。
これらの局所症状が続くと、炎症物質が全身を巡ることによる強い倦怠感や、鼻づまりによる睡眠不足を引き起こします。結果として日中の著しい集中力の低下を招き、仕事の能率低下や学業への支障など、生活の質(QOL)に深刻な影響を与えてしまいます。
花粉症の治療は「症状を抑える治療」と「体質を変える治療」がある
医療機関で提供する花粉症治療やアレルギー性鼻炎治療には、大きく分けて2つの方向性があります。一つは、現在起きているつらい症状を速やかに鎮める「薬物療法(対症療法)」です。もう一つは、免疫の過剰反応を正常化し、アレルギーを起こしやすい体質そのものを根本から変えていく「アレルゲン免疫療法」です。
また、具体的な治療を開始する前に、まずはご自身のアレルギーの原因(アレルゲン)を正確に把握することが非常に重要となります。当院では、少量の採血で主要な39種類のアレルゲンに対する特異的IgE抗体を一度に調べることができる「View39」などの血液検査を実施しています。この検査では、スギやヒノキといった樹木の花粉だけでなく、ハウスダストやダニ、さらには食物アレルギーの原因まで幅広く特定することが可能です。費用は健康保険が適用され、3割負担の方であれば約6,000円程度で受けることができます。原因を明確にすることは、的確な生活指導につながるだけでなく、後述する舌下免疫療法やゾレアなどの専門的な治療の適応を正しく判断するための欠かせないステップとなります。
ここからは、具体的な治療の選択肢について詳しく見ていきましょう。
薬物療法(基本治療)
アレルギー性鼻炎の基本となるのが、多様な薬剤を用いた薬物療法です。症状の種類や強さに応じて、最適なお薬を選択します。病院で処方できる花粉症の薬の種類は多岐にわたり、それぞれ得意とする作用が異なります。
| 薬剤の分類 | 主な作用と特徴 | 適応となる主な症状 |
| 抗ヒスタミン薬(内服) | アレルギーの原因物質(ヒスタミン)の働きをブロックする。 | くしゃみ、水様性鼻水、目のかゆみ |
| 点鼻ステロイド薬 | 鼻の粘膜に直接作用し、強力に炎症を抑える。全身への副作用は少ない。 | 鼻づまり、くしゃみ、鼻水(全般) |
| 抗アレルギー点眼薬 | 目の結膜でのアレルギー反応を抑える。 | 目のかゆみ、充血、涙 |
| ロイコトリエン拮抗薬 | 血管を拡張させる物質の働きを阻害し、粘膜の腫れを引かせる。 | 頑固な鼻づまり |
抗ヒスタミン薬は、アレルギー反応を引き起こす主要な物質である「ヒスタミン」が神経などに結合するのを防ぐお薬です。かつての古いタイプの薬は、強い眠気や口の渇きといった副作用が出やすいという課題がありました。しかし、現在医療機関で処方される主流の「第2世代抗ヒスタミン薬」は、脳への影響が極めて少なくなるよう改良されており、眠気や集中力低下を起こしにくく、日中のパフォーマンスを維持しやすいのが特徴です。
点鼻ステロイド薬は、鼻づまりに対して非常に高い効果を発揮します。鼻の粘膜という局所でのみ作用するよう設計されており、体内へ吸収される量はごくわずかであるため、全身への影響を過度に心配する必要はありません。また、鼻づまりが特に強い方には、ロイコトリエン拮抗薬という内服薬を組み合わせることもあります。
市販薬との大きな違いは、専門医の診断による「オーダーメイドの治療」が可能である点です。市販の総合鼻炎薬などは複数の成分があらかじめ配合されていますが、病院での処方であれば、「絶対に眠気が出ない薬にしてほしい」「とにかく夜の鼻づまりを解決したい」といった個別のニーズや症状に合わせて、最適な成分と用量を組み合わせた治療をご提案できます。
初期療法(シーズン前治療)
花粉症の治療において、お薬の力を最大限に引き出すための非常に有効なアプローチが「初期療法」です。これは、本格的な花粉飛散が始まる約2週間前から、まだ症状が出ていなくてもお薬の服用や点鼻薬の使用を開始するという治療法です。
花粉が飛び始める前から治療を開始することの重要性は、粘膜の過敏化(プライミング効果)を未然に防ぐことにあります。微量の花粉を連続して吸い込んでいると、鼻の粘膜は徐々に敏感になり、ピーク時にはわずかな花粉の量でも激しいアレルギー反応を起こすようになってしまいます。飛散前から薬によって粘膜の微細な炎症を抑え込んでおくことで、いざ大量の花粉が飛散した際のピーク時の症状の悪化を穏やかにする効果が期待できます。
舌下免疫療法(体質改善治療)
薬物療法が、現在起きている症状を鎮めるための対症療法であるのに対し、アレルギーの原因そのものに働きかけ、体質改善を目指す現在唯一の根本治療が「舌下免疫療法」です。
この治療は、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を含むお薬を、毎日少しずつ体内に取り入れることで、免疫システムをアレルゲンに対して徐々に慣れさせていく治療法です。少しずつ免疫の過剰な反応を抑えることで、アレルギー症状を和らげたり、長期にわたり症状を抑え込んだりする効果が期待できます。現在、この治療の適応となるのは、「スギ花粉症」および「ダニアレルギー性鼻炎」と確定診断された患者さんです。
治療期間については、免疫システムを根本から教育し直すため、1日1回の服用を数年(推奨は3年以上)という長期間にわたって根気よく継続していただく必要があります。スギ花粉が飛んでいない時期も含めて毎日服用を続けることが、治療を成功させる最大の鍵となります。また、スギ花粉が飛散している時期は体が過敏になっているため、新たに治療をスタートすることができません。そのため、花粉シーズンが完全に終了した時期に治療を開始します。
舌下免疫療法の最大のメリットは、長期にわたり正しく継続することで、アレルギー症状が大きく改善し、薬の使用量を大幅に減らすことが期待できる点です。生活の質(QOL)の向上にも大きく貢献します。
一方で注意点として、原因物質を直接体内に投与するため、服用後に口の中の腫れやかゆみなどの局所的な副作用が現れることがあります。また、極めて稀ではありますが、アナフィラキシーを引き起こすリスクが存在します。そのため、初回の投与は必ず院内で医師の監督のもと行い、問題がなければ翌日以降はご自宅での服用に移行するという慎重な手順を取っています。
| 舌下免疫療法の費用目安(※保険適用3割負担の場合) | 金額の目安 |
| 初回投与時(診察+検査+お薬7日分など) | 約4,000円〜5,000円程度 |
| 2回目以降(診察+お薬30日分) | 1ヶ月あたり約3,000円前後(年間約3万円強) |
※重度の気管支喘息の方、悪性腫瘍や自己免疫疾患の治療中の方などは、安全上の理由から治療を受けられない場合があります。
重症例への治療(専門治療)
上記のような基本的な薬物療法を適切に行っても、なお症状が抑えきれずに日常生活がままならない重症の患者さんに対しては、さらに一歩進んだ専門的な治療の選択肢が用意されています。
一時的に著しく症状が強い場合には、内服のステロイド薬を数日間の短期間に限って処方することがあります。劇的な症状改善効果を示しますが、長期連用は全身の副作用を引き起こすリスクがあるため、医師の厳密な管理下でのみ使用されます。
また、スギ花粉症の重症例に対する画期的な治療として、「ゾレア(一般名:オマリズマブ)」などの抗IgE抗体注射薬による治療があります。これは、アレルギー反応の引き金となるIgE抗体そのものに結合して、その働きを根本からブロックする注射薬です。
| ゾレア(抗IgE抗体治療)の主な適応条件 |
| 1. 成人および12歳以上の小児であること |
| 2. 既存の治療(抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイド薬など)を一定期間行っても十分な効果が得られないこと |
| 3. アレルギー検査の結果、スギ花粉に対する抗体価がクラス3以上であること |
| 4. くしゃみや鼻をかむ回数が1日21回以上など、症状が「重症」または「最重症」に分類されること |
このお薬は、既存の治療では抑えきれなかった激しい症状に対して極めて高い効果を発揮することが期待されています。ただし、事前の血液検査が必要であり、体重やIgE値によって投与量とお薬の費用が変動します。適応の有無や治療方針については、専門医による慎重な医学的判断のもと決定されますので、まずはご相談いただくことが第一歩となります。
花粉症はいつ受診すべき?
花粉症で病院を受診する目安として、いくつか大切なポイントがあります。
まず、市販薬を数日間使ってみても症状が十分に改善しない時が一つのサインです。専門医の目を通すことで症状がスムーズに落ち着くことが多くあります。
次に、毎年決まった季節につらい症状が出るという方です。このような方は、本格的に花粉が飛散する前(予測日の約2週間前)に受診して「初期療法」を開始することが、シーズンを快適に過ごすための最大の防御となります。
また、薬による日中の眠気がつらく、仕事や学業に支障が出ている場合も受診をおすすめします。眠気が出にくい最新の薬への変更により、パフォーマンスを取り戻すことができます。
最後に、「舌下免疫療法」による根本治療を検討したいとお考えになったタイミングです。この場合は、スギ花粉の飛散時期が終わった後(初夏〜秋口)が、検査と治療の相談を行う絶好の機会となります。
まとめ
花粉症は、現代の医学において、副作用を極力抑えつつ高い効果を発揮するお薬の組み合わせや、体質を変えていく舌下免疫療法、さらには最新の注射治療など、患者さんの状況に応じた非常に多くの選択肢が用意されています。
適切なタイミングで専門的な評価を受け、ご自身のアレルギーの原因を知り、最も適した治療を選択することで、花粉が飛散するシーズンであっても、生活の質(QOL)を大きく改善し快適な日常を取り戻すことは十分に可能です。
長年のアレルギー症状にお悩みで、ご自身に合った治療法を知りたい方や、根本的な治療に関心のある方は、ぜひ一度当院までお気軽にご相談ください。最適な医療を通じて、皆さまが健やかに生活できる日々をサポートしてまいります。

