院長コラム

    健康診断で見逃さない!甲状腺異常の早期発見

    健康診断だけでは甲状腺の病気が見つかりにくいことがあります。
    最初に調べるのはTSH(ティーエスエイチ:甲状腺を働かせる指令ホルモン)で、必要に応じてFT4(エフティーフォー:体内で実際に働ける甲状腺ホルモン)を追加します。
    妊娠・産後、薬やサプリ(特にビオチン)、海藻のとり過ぎ・造影剤検査などは、数値をゆがめたり、症状を分かりにくくしたりするため注意が必要です。

    TSHとFT4って何?

    • TSH(甲状腺刺激ホルモン)
      脳の下垂体から出る「甲状腺を働かせる指令」。
      • 甲状腺ホルモンが足りない → TSHが上がる(低下ぎみのサイン)
      • 甲状腺ホルモンが多すぎる → TSHが下がる(働きすぎのサイン)
    • FT4(遊離サイロキシン)
      甲状腺ホルモンの“実働部”。体の中で実際に効いている分を示します。
      TSHだけでは判断が難しい時(脳側の病気が疑わしい時、重い病気で一時的に数値が乱れている時など)に特に役立ちます。

    どうやって調べるの?

    • 方法:通常の採血(血清)。
    • 食事:原則いつでも可(空腹でなくてOK)。
    • 比べ方:経過を見るときは、できるだけ同じ時間帯・同じ検査室で測るとブレが少なくなります。
    • 追加の調べ方:まずTSHを測り、異常が出たらFT4(必要なら別のホルモンT3)を自動で追加して調べる運用にすると効率的です。

    採血前の注意点

    • ビオチン(美容・育毛系サプリに多い)は数値を誤判定させることがあります。2〜3日前から中止を。
    • 薬:アミオダロン、リチウム、ステロイド、ドパミン製剤などは数値に影響します。
    • 治療中のがん免疫薬(免疫チェックポイント阻害薬)は、甲状腺の炎症→機能低下を起こすことがあります。
    • 海藻のとり過ぎ・造影剤検査の後は、一時的に数値が変わることがあります。
    • 妊娠中・産後は基準範囲や見方が変わります。必ず申告を。

    甲状腺の主な症状

    働きが弱いとき(甲状腺機能低下)

    • だるい・眠い/寒がり/体重増加/便秘/肌の乾燥・抜け毛/むくみ/脈が遅い/気分が落ち込む/月経不順・不妊
    • 検査でLDLコレステロール高め、CK(筋肉の酵素)軽く高めになることも

    働きが強すぎるとき(甲状腺機能亢進)

    • 動悸・息切れ/手のふるえ/暑がり・汗が多い/体重減少・食欲増加/下痢ぎみ/イライラ・不眠/筋力低下
    • 放っておくと心房細動や骨量低下のリスク

    しこり・腫れ(甲状腺結節)

    • 首の前のふくらみ・しこり/片側の違和感/声のかすれ/飲みこみにくさ
      ※無症状で超音波検査(エコー検査)ではじめて見つかることも多いです。

    甲状腺の炎症

    • 無痛性:しばらく働きすぎ→その後働き不足に移ることがあります
    • 亜急性:発熱+前頸部の強い痛み、触ると痛い、血液で炎症反応が高い

    健診のあと、まずどう考える?

    • 第一歩はTSH
      • TSHが高い → まずFT4で重さを確認。必要に応じて甲状腺に対する抗体(橋本病の関与を見る検査)も。
      • TSHが低い → FT4(+必要ならT3)で強さを確認。必要に応じてバセドウ病に関連する抗体も。
      • TSHが正常でも症状が強い、首が腫れている、しこりがある → 甲状腺エコーを検討。
    • 脳側の病気が疑われるとき(FT4が低いのにTSHが低い〜正常など)は、内分泌の精密検査が必要になります。
    • 重い病気や手術の直後は、体の防御反応で一時的に甲状腺の数値が乱れることがあります。回復後に改めて測り直すと正確です。

    「数値が少しだけ外れている」段階の扱い

    健康診断や再検で、少しだけ基準から外れていることがあります。

    • TSHが少し高い・FT4は正常(軽い“低下ぎみ”)
      • TSHが10を超える場合は治療を考えるのが一般的。
      • 10以下なら、症状の強さ、甲状腺に対する抗体の有無、心臓・血管のリスク、妊娠希望などを見て判断。まずは3〜6か月で再検し、続いているかを確認します。
    • TSHがしっかり低い・FT4/T3は正常(軽い“働きすぎ”)
      • TSHが0.1未満で、高齢・骨粗しょう症・不整脈の危険がある方は治療を積極的に検討します。

    妊娠・産後での注意(見落としやすい点)

    • 妊娠中はTSHが生理的に下がります。可能ならその医療機関専用の基準範囲で判定します(ない場合は妊娠初期のTSH上限を約4.0の目安で判断)。
    • 産後一時的に働きすぎ→その後働き不足へと揺れることがあり、段階的な再検が役立ちます。

    薬・サプリ・検査で“数値がズレる”ことがあります

    • ビオチン(サプリ):TSHが低く出る/T3・T4が高く出るなどの誤判定 → 2〜3日前から中止。
    • アミオダロン・リチウム:働き不足/働きすぎのいずれも起こし得る → 定期的な採血が必要。
    • がん免疫薬:甲状腺炎から働き不足へ → 4〜12週ごとの採血を。
    • 海藻のとり過ぎ・造影剤検査後:一時的に数値が変わることがあります。

    しこりを指摘されたら(超音波検査の見方の目安)

    超音波検査(エコー検査)では、しこりの中身の性質・明るさ・形・ふちの様子・点々の強い光などを組み合わせて危険度を判断します。
    細い針で細胞をとる検査(細胞診)は、一般にしこりの大きさと危険度で決めます。

    • 目安:危険度が高い特徴がそろう場合は1cm以上、中くらいなら1.5cm以上、低めなら2.5cm以上で検討。
    • それ未満は、経過観察(1年ごとなど)で十分なことも多いです。

    受診の目安

    次のいずれかに当てはまる場合は、内分泌内科・甲状腺外来・一般内科などの医療機関へご相談ください。

    • 上記の症状が2つ以上あり、2〜4週間以上続く
    • 首の腫れ・しこりに気づいた/家族に指摘された/声がかれる
    • 健診でLDL高め、CK高め、貧血などの異常があるが原因が不明
    • 産後1年以内で体調が戻らない、月経異常・不妊が気になる
    • 高齢+体重減少や動悸が目立つ、不整脈・骨粗しょう症がある
    • アミオダロン・リチウムを内服中、がん免疫薬で治療中
    • 造影検査後や海藻のとり過ぎの後から体調が変化
    • 家族に甲状腺の病気がいる/自己免疫の病気がある

    緊急の目安(救急受診も検討)

    • 強い動悸・息切れ、胸の痛み、意識がもうろう
    • 発熱+首の強い痛み(亜急性甲状腺炎が疑われる)
    • 極端に遅い/速い脈、ひどい脱水や衰弱

    まとめ

    • 入口はTSH、必要に応じてFT4
    • 妊娠・産後、薬やサプリ、海藻・造影剤などの「数値がズレやすい条件」をあらかじめ伝えると、正確な判断につながります。

    数値が少しだけ外れている段階でも、再検のタイミング(3〜6か月)と体調の変化をていねいに追うことで、早めに適切な対応ができます。

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