院長コラム

    「GLP-1ダイエット」をご検討中の方へ

    知っておきたい効果・副作用と、健康な未来への可能性

    日々の仕事や生活に追われ、ご自身の健康管理が後回しになりがちな働き盛りの世代の皆様。今回の院長コラムでは、最近話題の「GLP-1ダイエット」について、医学的な観点からその効果と副作用、そして健康な未来への可能性について詳しく解説いたします。

    働き盛りの今こそ考えたい、未来の健康。生活習慣病予備軍のサインとは?

    毎日忙しく過ごされている働き盛りの皆様は、充実感と共に、知らず知らずのうちに心身への負担を溜め込んでいるかもしれません。実際、働く世代の健康問題は、個人の生活の質だけでなく、労働生産性にも影響を与えることが指摘されています。特に、不規則な食生活、運動不足、ストレス、睡眠不足といった生活習慣は、若い頃からの積み重ねで定着しやすく、40歳を過ぎてからの特定健診で初めて問題が指摘されるケースも少なくありません。

    このような中で、「生活習慣病予備軍」という言葉を耳にする機会が増えています。これは、まだ糖尿病や高血圧、脂質異常症といった診断は受けていないものの、体重の漸増や腹囲の増加、疲れやすさ、健康診断での血糖値や血圧、コレステロール値の軽度な上昇など、将来的に生活習慣病を発症するリスクが高まっている状態を指します。多くの方は「まだ大丈夫」「少し気をつければ元に戻る」と考えがちですが、この「予備軍」の段階こそ、将来の健康を守るための大切な介入時期なのです。この時期を放置してしまうと、気づかぬうちに本格的な生活習慣病へと進行してしまう可能性があります。

    しかし、悲観的になる必要はありません。現代の医療は、皆様の健康目標達成をサポートするための様々な選択肢を提供しています。その一つとして注目されているのが、GLP-1受容体作動薬を用いた治療法、いわゆる「GLP-1ダイエット」です。これは単なる体重減少を目指すだけでなく、生活習慣病のリスクを低減し、より健康な未来を手に入れるための一つの手段となり得ます。

    「GLP-1ダイエット」とは? – 健康目標達成をサポートする仕組み

    「GLP-1ダイエット」という言葉を聞くと、多くの方は新しいダイエット法を想像されるかもしれません。しかし、その中心となるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、もともと私たちの体内に存在するホルモンの一種です。食事をすると、主に小腸から分泌され、血糖値のコントロールに重要な役割を果たしています。

    GLP-1受容体作動薬は、この体内で自然に作られるGLP-1の作用を模倣したり、その効果を高めたりするように設計された薬剤です。内因性のGLP-1は体内で速やかに分解されてしまうため、薬剤としてその作用を持続させる工夫がされています。この薬が私たちの体に働きかける主なメカニズムは以下の通りです。

    1. 食欲の抑制:
      GLP-1は、脳の満腹中枢に作用し、食欲を抑える効果があります。これにより、食事の量が自然と減り、過食を防ぐことができます。空腹感に悩まされることなく、無理なく摂取カロリーをコントロールしやすくなるため、ダイエット中のストレス軽減にも繋がります。特に、視床下部といった食欲をコントロールする中枢に働きかけることで、満腹感を高め、空腹感を抑制します。
    2. 胃の内容物排出の遅延:
      GLP-1は胃の動きを緩やかにし、食べた物が胃から小腸へ移動するスピードを遅らせる作用があります。これにより、食後の満腹感が長時間持続し、次の食事までの空腹を感じにくくなります。結果として、間食を減らすことにも繋がり、総摂取カロリーの減少に貢献します。
    3. 血糖値に応じたインスリン分泌の促進:
      GLP-1は、血糖値が高い時に限り、膵臓からのインスリン分泌を促します。インスリンは血糖値を下げるホルモンですが、GLP-1によるインスリン分泌促進は血糖値に依存するため、単独使用の場合、低血糖を引き起こすリスクが低いという特徴があります。これは、特に血糖値が気になる方にとって重要なポイントです。

    これらの作用が複合的に働くことで、GLP-1受容体作動薬は体重減少をサポートします。しかし、重要なのは、この治療法が単に体重の数値を減らすことだけを目的としているのではないという点です。むしろ、体重管理を通じて、生活習慣病の発症リスクを低減し、長期的な健康維持を目指すための医療的なアプローチと捉えるべきです。特に、食欲のコントロールが難しい、満腹感が得られにくい、あるいは初期のインスリン抵抗性が見られるといった、生活習慣病予備軍の方々が抱えやすい問題に対して、生理的なメカニズムに働きかけることでサポートが期待できます。

    また、GLP-1受容体作動薬が体内の自然なホルモンの働きを模倣するという事実は、薬剤に対して漠然とした不安を感じる方にとって、少し安心できる要素かもしれません。

    GLP-1治療の気になる疑問:副作用とリスクについて

    どのような効果的な医薬品にも、副作用の可能性は伴います。GLP-1受容体作動薬も例外ではありません。治療を検討するにあたり、事前に副作用とリスクについて正しく理解しておくことは非常に重要です。

    比較的多く見られる副作用(主に消化器症状)

    GLP-1受容体作動薬の使用開始初期や増量時に、以下のような消化器系の症状が現れることがあります。

    • 吐き気(悪心)
    • 嘔吐
    • 下痢
    • 便秘
    • 腹部不快感、腹部膨満感
    • 食欲不振

    これらの症状は、多くの場合、治療を継続するうちに体が薬剤に慣れていくことで軽減していく傾向にあります。

    まれではあるものの注意すべき副作用

    頻度は低いものの、以下のような重篤な副作用が報告されています。これらの症状が現れた場合は、速やかに医師に相談する必要があります。

    • 低血糖: GLP-1受容体作動薬を単独で使用する場合、低血糖のリスクは低いとされています。しかし、インスリン製剤やスルホニル尿素(SU)薬など、他の血糖降下薬と併用する場合には、低血糖のリスクが高まる可能性があるため注意が必要です。症状としては、冷や汗、手の震え、動悸、強い空腹感、めまいなどがあります。
    • 急性膵炎: まれですが、膵臓に炎症が起こる急性膵炎が報告されています。持続する激しい腹痛(背中に痛みが放散することもあります)、嘔吐などの症状が現れた場合は、直ちに医療機関を受診してください。
    • 胆嚢炎・胆石症: 胆嚢の炎症や胆石ができる可能性も指摘されています。右上腹部の痛み、発熱、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)などの症状に注意が必要です。
    • 甲状腺髄様癌: 動物実験で甲状腺C細胞腫瘍の発生が報告されたことから、クラス警告として注意喚起されています。ヒトでの発生頻度は明らかではありませんが、甲状腺髄様癌の既往のある方や、多発性内分泌腫瘍症2型の家族歴がある方は使用できません。
    • その他のまれなリスク: 腸閉塞(イレウス)、腎機能障害、重篤なアレルギー反応(アナフィラキシーショックなど)なども報告されています。

    GLP-1治療が適さない方(禁忌)

    以下に該当する方は、基本的にGLP-1受容体作動薬を使用することができません。

    • 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある方
    • 糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡または前昏睡、1型糖尿病の方
    • 重症感染症、手術等の緊急の場合
    • 甲状腺髄様癌の既往のある方、または多発性内分泌腫瘍症2型の家族歴のある方
    • 膵炎の既往歴のある方
    • 重度の胃腸障害(胃不全麻痺など)のある方
    • 妊娠中、妊娠している可能性のある方、授乳中の方
    • 重度の腎機能障害、肝機能障害のある方(薬剤の種類や状態により慎重投与となる場合もあります)

    これらの副作用やリスクのリストを見ると、不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これらの情報が公開されているのは、安全な治療を行うための重要なステップです。大切なのは、これらの可能性を理解した上で、医師と密に連携を取りながら治療を進めることです。特に、どのような症状が一般的なもので、どのような症状が出たらすぐに医師に連絡すべきかを事前に把握しておくことで、安心して治療に臨むことができます。当クリニックでは、患者様一人ひとりの不安に寄り添い、十分な情報提供と丁寧な説明を心がけています。

    リスクを正しく理解する:GLP-1治療の副作用は多くが一時的で対応可能です

    前述の通り、GLP-1受容体作動薬にはいくつかの副作用の可能性がありますが、その多くは治療開始初期に見られる一過性のものであり、適切な対処によって軽減できる場合がほとんどです。

    多くの方が経験する吐き気や胃のむかつきといった消化器症状は、薬が胃の動きを緩やかにしたり、食欲を抑えたりする作用の現れとも言え、ある意味では「薬が効いている証拠」と捉えることもできます。これらの症状は、体が薬に慣れてくるにつれて、数日から数週間で自然と軽快していくことが多いと報告されています。特に、薬の投与量を増やすタイミングで一時的に症状が強まることもありますが、これも徐々に落ち着いていくことが一般的です。

    以下に、主な副作用とその対処法についてまとめます。これらの工夫をご自身で行っていただくとともに、つらい症状が続く場合は遠慮なく医師にご相談ください。

    よくある副作用とご自身でできる工夫

    副作用よくある症状ご自身でできる工夫・対処法医師への相談目安
    吐き気・嘔吐むかつき、吐いてしまう・食事の量を少なめにし、回数を増やす・脂っこい食事や刺激の強い食べ物を控える・ゆっくりよく噛んで食べる・水分をしっかり摂る(炭酸飲料は避ける)・医師に相談し、必要に応じて吐き気止めを処方してもらう症状が強い、水分も摂れない、数日経っても改善しない場合
    下痢水様便、頻回な便意・脱水を防ぐため、水分や電解質(経口補水液など)を十分に補給する・刺激物を避ける症状が激しい、長期間続く、血便が見られる場合
    便秘排便回数の減少、硬い便、残便感・食物繊維(野菜、きのこ、海藻など)を多く摂る・水分を十分に摂る・適度な運動を行う・必要に応じて医師に相談し、緩下剤などを処方してもらう数日間排便がない、腹痛が強い、市販薬で改善しない場合
    腹部不快感・膨満感お腹の張り、ガスが溜まる感じ・一度にたくさん食べ過ぎない・消化の良いものを中心に摂る・ガスを発生させやすい食品(豆類、芋類など)を控える症状が持続し、日常生活に支障が出る場合
    低血糖冷や汗、手の震え、動悸、強い空腹感、めまいなど・すぐにブドウ糖や糖分の含まれるジュースなどを摂取する・外出時はブドウ糖などを携帯する症状が頻繁に起こる、意識が朦朧とする、他の糖尿病治療薬を併用している場合、医師に必ず相談

    副作用を最小限に抑え、安全に治療を進めるためには、医師による適切な管理が不可欠です。治療は、通常、少ない量から開始し、体の状態や副作用の出現状況を確認しながら、段階的に投与量を調整していきます(漸増投与)。これにより、体が薬に慣れる時間を確保し、副作用の発現を和らげることができます。

    また、定期的な診察を通じて、医師は患者様の体調変化を注意深く観察し、必要に応じて投与量の調整や副作用に対するサポートを行います。最も重要なことは、ご自身の判断で薬の量を変更したり、服用を中止したりしないことです。気になる症状があれば、どんな些細なことでも医師や看護師、薬剤師にご相談ください。

    治療開始前に副作用の可能性とその対処法について知っておくことは、不安を軽減し、治療への積極的な参加を促します。当クリニックでは、患者様が安心して治療に取り組めるよう、きめ細やかなサポートを心がけています。

    体重管理だけじゃない!GLP-1治療の嬉しい健康効果

    GLP-1受容体作動薬は、体重減少効果が注目されがちですが、実はそれ以外にも生活習慣病の予防や管理において、多くの喜ばしい健康効果が期待されています。これらは、まさに生活習慣病予備軍の皆様が目指す「健康な未来」に繋がるものです。

    1. 血糖コントロールの改善:
      GLP-1受容体作動薬は、血糖値が高い場合にインスリン分泌を促進し、血糖値を上昇させるグルカゴンというホルモンの分泌を抑制することで、血糖コントロールを改善します。これは、すでに糖尿病と診断されている方だけでなく、血糖値が高めの方やインスリンの効きが悪くなっている状態(インスリン抵抗性)の方にとっても有益です。血糖値が安定することで、将来的な糖尿病発症のリスク低減が期待できます。
    2. 心血管系への好影響:
      近年、GLP-1受容体作動薬が心臓や血管に対しても保護的に働く可能性が数多くの研究で示唆されています。そのメカニズムとしては、血圧の低下作用、脂質プロファイルの改善、血管内皮機能の改善、炎症の抑制、動脈硬化の進行抑制などが挙げられています。
      特に注目すべきは、一部のGLP-1受容体作動薬において、心筋梗塞や脳卒中といった主要な心血管イベント(MACE)のリスクを低減する効果が報告されている点です。2024年に発表された研究では、糖尿病ではない過体重または肥満の方々においても、GLP-1受容体作動薬が心血管イベントのリスクを低減したとの報告もあります。これは、体重管理が心血管疾患予防に直結することを示す重要な知見です。
    3. 内臓脂肪の減少:
      お腹周りにつく内臓脂肪は、見た目の問題だけでなく、糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病の大きな原因となります。GLP-1受容体作動薬による治療は、この内臓脂肪を効果的に減少させることが報告されています 。内臓脂肪が減ることで、インスリン抵抗性の改善、血圧の低下、脂質代謝の改善などが期待でき、メタボリックシンドロームの予防・改善に繋がります。

    これらの「体重管理だけではない」メリットは、GLP-1治療を単なるダイエット薬としてではなく、生活習慣病のリスクを総合的に管理し、より健康な状態を目指すための「健康保護療法」として捉えることを可能にします。特に、心血管系への好影響は、将来の健康寿命を延ばす上で非常に大きな意味を持つと言えるでしょう。内臓脂肪の減少は、これらの血糖改善効果や心血管保護効果の根底にある重要なメカニズムの一つと考えられます。

    GLP-1治療はあなたに適している? – より健康な未来のために医師にご相談を

    これまでGLP-1受容体作動薬の効果や副作用、そして体重管理以外の健康効果について解説してきました。これらの情報が、皆様の健康管理の一助となれば幸いです。

    しかし、最も重要なことは、GLP-1治療が全ての方に適しているわけではなく、医師による慎重な判断と適切な指導のもとで行われるべき医療行為であるという点です 。インターネットやSNSの情報だけを頼りに自己判断で治療を開始したり、個人輸入などで薬剤を入手したりすることは、予期せぬ健康被害を招く可能性があり非常に危険です。

    GLP-1治療の恩恵を最大限に引き出し、安全に進めるためには、以下の点が不可欠です。

    • 医師による適切な診断と適応判断:
      まずは、専門の医師にご相談いただき、現在の健康状態、既往歴、ライフスタイル、そして治療に対するご希望などを詳しくお伝えください。医師は、これらの情報と医学的な検査結果を総合的に評価し、GLP-1治療があなたにとって適切かつ安全な選択肢であるかを判断します。
    • 包括的な治療計画の一環として:
      GLP-1受容体作動薬は、魔法の薬ではありません。その効果を最大限に発揮し、治療終了後も健康な状態を維持するためには、バランスの取れた食事、定期的な運動、質の高い睡眠、ストレス管理といった生活習慣の改善と組み合わせることが極めて重要です 。GLP-1治療は、これらの健康的な生活習慣を実践しやすくするための強力なサポーターと考えることができます。食欲がコントロールしやすくなることで、健康的な食事を選びやすくなり、体重が減ることで運動への意欲も湧きやすくなるでしょう。
    • 継続的な医療サポート:
      治療開始後も、定期的な通院を通じて、効果の確認、副作用のモニタリング、必要に応じた投与量の調整など、医師による継続的なサポートを受けることが大切です。

    すみだ両国まちなかクリニックでは、患者様お一人おひとりの状態や価値観に寄り添い、「ここにこれば安心できる、この街にあってよかった医療」の提供を目指しております 。GLP-1治療にご興味をお持ちの方、ご自身の健康状態や生活習慣病のリスクについて不安を感じている方は、どうぞお気軽に当クリニックにご相談ください。

    私たちは、皆様がより健康で充実した毎日を送れるよう、医学的な知見をもってサポートさせていただきます。GLP-1治療が一つの選択肢として、皆様の健康な未来への扉を開くきっかけとなることを願っています。

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