訪問診療コラム

病院から自宅へ移るのが心配—多職種の連携プランで自宅での最期まで切れ目なく支援できた

長い入院生活を経て、医師から「そろそろ退院して、自宅で療養してはどうでしょう」と提案されたとき、ご本人やご家族はどのようなお気持ちになるでしょうか。

住み慣れた我が家に帰れる喜びがある一方で、「本当に家でやっていけるのだろうか」「夜中に容態が急変したらどうしよう」「家族だけで介護ができるのか」といった、大きな不安に襲われることも少なくありません。特に、医療的な処置が必要な状態での退院や、人生の最期を自宅で迎えたいと希望されている場合はなおさらです。

しかし、ご安心ください。在宅療養は、決してご家族だけで抱え込むものではありません。訪問診療クリニックを中心とした「多職種」がチームとなり、病院から自宅への移行、そしてその後の生活を切れ目なく支える仕組みが整っています。

この記事では、病院から自宅へ移る際の不安をどのように解消していくのか、そして多くの専門職が連携して行うサポート体制について、わかりやすく解説します。

退院後の生活を支える「多職種連携」とは?

病院では、医師や看護師がすぐそばにいて、ナースコールを押せばすぐに駆けつけてくれる安心感がありました。自宅に戻るとその環境がなくなるため、不安を感じるのは当然のことです。その不安を埋め、自宅でも病院と同じように安心して過ごせるようにするのが、在宅医療における「多職種連携」です。

医師・看護師だけではない、チームでのサポート体制

在宅療養を支えるのは、定期的に診察に訪れる訪問診療の医師だけではありません。患者様の状態や生活環境に合わせて、多くの専門家がチームを組みます。

まず、日々の健康状態の確認やお薬の管理、入浴介助などを行う「訪問看護師」がいます。医師の指示のもと、医療的な処置も行います。また、お薬を自宅まで届け、飲み方や管理方法を指導してくれる「訪問薬剤師」も重要な存在です。

生活面では、食事や掃除、排泄介助などを行う「ホームヘルパー(訪問介護員)」が生活を支えます。さらに、リハビリ専門の理学療法士などが訪問することもあります。

そして、これらの多くの専門職をまとめ上げ、患者様一人ひとりに最適なケアプラン(介護計画)を作成するのが「ケアマネジャー(介護支援専門員)」です。このように、医療と介護の専門家がそれぞれの役割を果たしながら、一つのチームとして患者様とご家族を支えていきます。

ケアマネジャーや訪問看護師との密な情報共有

多職種連携において最も重要なのは、チーム内での情報共有です。例えば、ヘルパーが訪問した際に「今日は少し食欲がないようだ」と気づいたとします。その情報はすぐにケアマネジャーや訪問看護師に伝わり、必要であれば訪問診療医に報告が入ります。

医師は、その報告を受けて「次回の訪問を早めるべきか」「薬の調整が必要か」といった判断を迅速に行うことができます。

かつては、それぞれの職種がバラバラに動いてしまい、情報の伝達が遅れることもありましたが、現在はICTツール(医療介護専用の連絡アプリなど)を活用し、リアルタイムで患者様の情報を共有する体制が進んでいます。離れていても、チーム全員が患者様の「今」の状態を把握している。これが、在宅療養の安全を守る基盤となっています。

病院から自宅への移行はどのように進むのか

では、実際に病院から自宅へ移る際、どのような手順で準備が進められるのでしょうか。「ある日突然放り出される」ということは決してありません。病院のスタッフと在宅医療チームが連携し、綿密な計画のもとで移行が行われます。

退院前カンファレンスでの準備と計画

退院が決まると、多くの場合「退院前カンファレンス」という話し合いの場が設けられます。これには、病院の主治医や看護師、医療ソーシャルワーカーに加え、これから在宅でお世話になる訪問診療医、訪問看護師、ケアマネジャー、そして患者様ご本人やご家族が参加します。

この場で、現在の病状や必要な医療処置、ご本人の希望、ご家族の介護力(どの程度介護に関われるか)などを詳しく確認し合います。「夜間の吸引は誰が行うか」「お風呂はどうするか」「緊急時の連絡先はどこか」など、具体的な生活をシミュレーションしながら、役割分担を決定します。

このカンファレンスにより、関わるスタッフ全員が共通の目標を持ち、顔の見える関係を作ることができます。ご家族にとっても、「これだけの人が支えてくれるんだ」という実感を持てる最初の機会となります。

自宅環境の整備と医療機器の準備

退院に向けて、自宅の環境を整えることも大切です。例えば、介護用ベッド(特殊寝台)の導入、手すりの設置、段差の解消などが必要になる場合があります。これらはケアマネジャーや福祉用具専門相談員が自宅を訪問し、適切なアドバイスと手配を行います。

また、在宅酸素療法や点滴、痰の吸引機などの医療機器が必要な場合も、スムーズに導入できるよう手配します。訪問診療クリニックや訪問看護ステーション、医療機器メーカーが連携し、機器の設置から操作説明まで丁寧に行いますので、機械の操作に不安があるご家族もご安心ください。

退院当日は、自宅に戻られたタイミングに合わせて訪問診療医や看護師が訪問し、長旅の疲れが出ていないか、機器が正しく動いているかなどを確認することもあります。このように、病院から自宅へのバトンタッチは慎重かつ丁寧に行われます。

「自宅での最期」までを切れ目なく支援するために

住み慣れた自宅で最期まで過ごしたいと願う方にとって、病状が進行したときや、いよいよ最期の時が近づいたときの対応は、最も気がかりな点でしょう。訪問診療では、そのような時期を見据えた「切れ目のない支援」を重視しています。

24時間365日の連絡体制と緊急時の対応

在宅療養中、いつ何が起こるかは予測できません。特に夜間や休日に体調が悪化することはよくあることです。そのため、機能強化型の訪問診療クリニックでは、24時間365日、いつでも連絡が取れる体制を整えています。

「熱が出た」「痛みが強くなった」「呼吸が苦しそう」といった場合、まずは専用の連絡先に電話をします。当直の医師や看護師が状況を聞き取り、電話での指示で様子を見るか、緊急往診が必要か、あるいは救急車を呼んで病院へ搬送すべきかを的確に判断します。

「いつでも繋がる医師がいる」という事実は、ご家族にとって精神的な大きな支えとなります。迷ったときに相談できるプロがいることで、慌てずに対応することができるようになります。

身体の変化に合わせた柔軟なケアプランの見直し

病状は日々変化します。今までできていたことができなくなったり、痛みの種類が変わったりすることもあります。そのような変化に合わせて、ケアプランも柔軟に見直していきます。

状態が安定している時期は、生活リハビリを中心にして体力の維持に努めます。一方で、徐々に体力が低下してきた場合は、身体への負担を減らすケアに切り替えたり、訪問看護や訪問診療の回数を増やしたりして、手厚く見守る体制へとシフトします。

この切り替えの判断も、日々の多職種連携の中で行われます。「最近、笑顔が減った気がする」「痛みを我慢しているようだ」といった小さな変化を見逃さず、チーム全体でサポートの内容を最適化していきます。

ご家族の不安に寄り添う心のケア

在宅での看取りを視野に入れている場合、患者様ご本人の苦痛緩和(緩和ケア)はもちろんですが、ご家族の心のケアも非常に重要です。

「本当にこれでよかったのか」「もっと何かしてあげられることはないか」と、ご家族は常に葛藤を抱えています。訪問診療医や訪問看護師は、診療や処置の時間を通じて、ご家族の話をじっくりと伺います。

医学的な見通しを分かりやすくお伝えし、今後起こりうる変化についてあらかじめ説明することで、心の準備をお手伝いします。また、介護疲れが出ないよう、ショートステイ(短期入所)などのレスパイトケア(休息のためのサービス)を提案することもあります。患者様だけでなく、ご家族も含めた「家族全体」を支えるのが、在宅医療の役割です。

まとめ

病院から自宅への移行は、確かに勇気のいる決断かもしれません。しかし、現在の在宅医療は、医師、看護師、ケアマネジャー、薬剤師、ヘルパーなど、多くの専門職が堅固なスクラムを組み、病院に劣らない安心感を提供できる体制を整えています。

退院前から綿密な計画を立て、日々の変化を共有し、24時間体制で見守る。この「多職種連携」があるからこそ、ご自宅での穏やかな療養生活、そしてご希望に沿った最期を迎えることが可能になります。

「自宅に帰りたいけれど、不安が大きい」という方は、まずは一度、私たちにご相談ください。ご本人の病状やご家庭の状況に合わせ、どのようなサポート体制が組めるのか、具体的にご提案させていただきます。不安を一つひとつ解消し、安心して自宅での時間を過ごせるよう、私たちが全力を尽くしてサポートいたします。

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