訪問診療コラム

家族の不安が強く在宅継続に迷い—24時間連絡体制とACPで納得して看取れた

大切なご家族がご病気を抱え、ご自宅で療養生活を送る中で、「このまま家で診ていけるのだろうか」と不安に思う瞬間は誰にでも訪れます。特に、病状が進行したり、夜間に容態が変わったりした経験があると、ご家族の精神的・身体的な負担はピークに達し、在宅医療の継続を迷うのは当然のことです。

しかし、適切な医療サポートと事前の準備があれば、その不安を大きく和らげ、最終的には患者様もご家族も納得のいく最期の時間を過ごすことが可能です。

この記事では、在宅療養を支える二つの大きな柱である「24時間連絡体制」と「ACP(人生会議)」について、どのように家族の不安を解消し、穏やかな看取りにつながるのかを解説します。

在宅療養で家族が抱える「迷い」と「不安」の正体

ご自宅での介護や療養を続けていく中で、ご家族が最も不安を感じるのは、「もしもの時」への恐怖と、責任の重さではないでしょうか。

夜間や急変時への恐怖

昼間は訪問看護師やヘルパーの出入りがあり安心できても、夜になると「家族だけ」になります。「夜中に熱が出たらどうしよう」「痛がったらどう対応すればいいのか」「呼吸が止まってしまったら」といった予測できない事態への恐怖は、ご家族の安眠を奪い、精神的な余裕をなくしていきます。この状態が続くと、「病院に入院させた方が安心なのではないか」という迷いが生じます。

代理意思決定の重圧

患者様ご本人が意思を伝えられなくなったとき、医療的な判断をご家族が迫られることがあります。「延命治療をするか、しないか」「救急車を呼ぶか、呼ばないか」。これらの重大な決断を、医学的な知識がない中で瞬時に行わなければならないプレッシャーは計り知れません。「自分の判断は正しかったのか」と後悔することを恐れ、在宅での看取りに自信を持てなくなるケースも少なくありません。

「24時間連絡体制」がもたらす安心感とは

訪問診療クリニックが提供する「24時間365日の連絡体制」は、単に電話がつながるというだけではありません。それは、ご家族の不安を受け止め、適切な判断をサポートする「命のセーフティーネット」です。

迷ったときにすぐに相談できる場所

例えば、深夜に患者様の様子がいつもと違うと感じたとします。救急車を呼ぶべきか、朝まで様子を見ていいのか、素人判断では難しい場面です。そんな時、いつでも繋がる連絡先があることは大きな心の支えになります。

医師や看護師が電話口で状況を聞き取り、「常備薬の痛み止めを使って様子を見ましょう」「これから医師が往診に向かいます」「それは緊急性が高いので救急車を呼びましょう」といった具体的な指示を出します。この「医療のプロの判断」が背中にあることで、ご家族は落ち着いて対応することができます。

救急車を呼ばないという選択肢

一般的な生活では、体調急変=救急車というイメージがあるかもしれません。しかし、最期の時間を自宅で穏やかに過ごしたいと願う場合、救急搬送されて知らない環境で処置を受けることが、必ずしもご本人やご家族の望む形ではないこともあります。

24時間体制の訪問診療が入っていれば、急変時もまずはクリニックに連絡することで、往診による対応が可能になります。住み慣れたベッドの上で、痛みを和らげる処置を受けながら、ご家族に見守られて過ごす。そうした選択肢を守るためにも、24時間つながる医療体制は不可欠です。

「ACP(人生会議)」で心の準備を整える

不安を解消するもう一つの重要な要素が、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)、愛称「人生会議」です。これは、万が一の時に備えて、患者様本人が大切にしていることや、望む医療・ケアについて、前もってご家族や医療チームと話し合うプロセスのことです。

「もしもの時」を具体的にシミュレーションする

ACPでは、病状が進行した未来を想定して話し合いを行います。「口から食事が摂れなくなったらどうしたいか」「点滴などの延命処置をどこまで望むか」「最期はどこで迎えたいか」といったデリケートな話題も、体調が落ち着いている時期に少しずつ言葉にしていきます。

こうした話し合いは一度きりで終わるものではありません。心境の変化に合わせて何度でも話し合い、その都度記録に残し、医療チームと共有します。これにより、いざという時に「本人はこう望んでいた」という確信を持って行動できるようになります。

ご家族の「決断の荷」を下ろす

事前にご本人の価値観や希望を共有できていれば、ご家族が土壇場で迷うことが少なくなります。「以前、お父さんはこう言っていたから、この処置はせずに痛みの緩和を優先しよう」と、ご本人の意思を尊重する形で判断できるようになります。

これは、ご家族が一人で責任を負うのではなく、ご本人の意思と医療チームの支えによって「みんなで決めたこと」にする作業でもあります。ACPを通じて心の準備をしておくことが、結果的に「できることはすべてやった」という納得感につながります。

納得できる「看取り」を迎えるために

在宅での看取りは、決して「医療をあきらめること」や「何もしないこと」ではありません。ご本人がその人らしく最期まで生き抜くために、生活の場で最大限の医療的サポートを行うことです。

医療チームは家族の伴走者

訪問診療医や訪問看護師は、患者様の身体を診るだけでなく、ご家族の心のケアも大切な役割としています。介護に疲れてしまった時、不安で押しつぶされそうな時、その気持ちを私たち医療者に吐き出してください。

「今は少し休んだ方がいいですよ」「よく頑張っていらっしゃいますね」といった言葉かけや、具体的な介護アドバイスを通じて、ご家族が共倒れしないように支え続けます。ご家族が穏やかな気持ちで患者様に接することができれば、それは患者様ご本人の安らぎにも直結します。

「家で良かった」と思える日を目指して

最初は「家で看取るなんて怖い」と感じていたご家族も、24時間のサポート体制とACPによる準備を経て、「最期まで一緒にいられてよかった」「苦しむことなく、眠るように旅立ててよかった」とおっしゃることが多くあります。

不安があるのは、それだけ真剣にご家族のことを想っている証拠です。その想いを、私たちが専門知識と体制でサポートします。

まとめ

在宅療養におけるご家族の不安は、決して一人で抱え込むものではありません。「24時間いつでも連絡がつく安心感」と、「ACPを通じた事前の心の準備」があれば、迷いや恐怖は「納得」へと変わっていきます。

ご自宅での療養生活に限界を感じている方、今後の見通しが立たず不安な方は、まずは一度ご相談ください。私たち医療チームが、患者様とご家族皆様の想いに寄り添い、最良の時間を過ごせるよう全力でサポートいたします。

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