訪問診療コラム

化学療法中止後の吐き気・倦怠感—在宅点滴と支持療法で移動負担なく過ごせた

抗がん剤治療(化学療法)を中止することになったとき、あるいは中止を決断されたとき、多くの患者様やご家族は「これで副作用のつらさから解放される」と期待されることと思います。しかし実際には、治療を終えてもしばらくの間、吐き気や強い倦怠感(だるさ)が続き、戸惑ってしまうケースは少なくありません。

体調が優れない中で、定期的な通院のために車に乗り、病院の待合室で長時間過ごすことは、想像以上に大きな身体的・精神的負担となります。「もう通院する体力がないけれど、家でどう過ごせばいいのか分からない」「このまま家で過ごして、つらい症状に対応できるのだろうか」といった不安を抱えてはいませんでしょうか。

実は、病院への通院が難しくなったとしても、ご自宅で医療処置を受けながら、苦痛を和らげて穏やかに過ごす方法はあります。それが訪問診療による「在宅での支持療法」です。

この記事では、化学療法中止後にも症状が続く理由や、ご自宅で受けられる点滴・緩和ケア(支持療法)について、わかりやすく解説します。通院の負担を減らし、ご自宅で安心して療養生活を送るための参考にしていただければ幸いです。

化学療法を中止した後も続く「吐き気」や「倦怠感」の原因

治療をやめたはずなのに、なぜまだつらい症状があるのでしょうか。まずはその原因を知ることで、過度な不安を和らげ、適切な対処法を見つけやすくなります。

体に残る影響と回復のプロセス

抗がん剤の種類にもよりますが、薬剤が体から完全に抜けきるまでには一定の時間がかかります。また、長期間の治療によって肝臓や腎臓などの代謝機能が低下している場合、薬の成分が分解・排出されるまでに通常よりも時間がかかることがあります。

さらに、治療によってダメージを受けた正常な細胞(胃腸の粘膜や骨髄など)が回復する過程でも、不快感や疲労感が生じることがあります。これは体が元の状態に戻ろうとしている反応の一つでもありますが、患者様にとっては「まだ治らないのか」というストレスになりがちです。

がんそのものによる症状の可能性

治療の副作用だけでなく、病気そのものが原因となって症状が出ている場合もあります。これを腫瘍による症状と言います。

例えば、消化器系の臓器に病変がある場合や、腹水がたまっている場合などは、お腹の張りや吐き気が生じやすくなります。また、体内の炎症反応や電解質バランスの乱れ(カルシウム値の変化など)によって、強い倦怠感が引き起こされることもあります。これらは「治療をやめたから悪化した」とは一概には言えませんが、生活の質(QOL)を保つためには、医療的なコントロールが必要な状態です。

心理的な負担と身体症状の関係

「治療を中止する」という決断自体が、患者様にとって大きな心理的ストレスとなることがあります。これからの生活への不安や緊張が続くと、自律神経のバランスが崩れ、それが吐き気や食欲不振、不眠といった身体症状として現れることがあります。心と体は密接につながっているため、身体的なケアだけでなく、心のケアも同時に行っていくことが大切です。

「支持療法」とは?自宅で受けられるケアの内容

「支持療法」とは、がんそのものを治す治療ではなく、がんに伴う症状や治療の副作用による苦痛を和らげ、患者様の生活の質を支えるための医療ケアのことです。これまでは病院で行っていたようなケアも、現在は訪問診療を利用することで、ご自宅でも十分に行うことができます。

つらい症状を和らげる薬物療法

ご自宅では、患者様の症状に合わせてきめ細かくお薬の調整を行います。

吐き気に対しては、その原因(消化管の動きが悪い、脳の中枢が刺激されているなど)を見極め、複数の種類の制吐剤(吐き気止め)を使い分けます。飲み薬を飲み込むのがつらい場合には、口の中で溶ける薬や、坐薬、あるいは貼るタイプの薬などを使用し、患者様の負担が少ない方法を選択します。

倦怠感や痛みに対しても、ステロイド薬や医療用麻薬などを適切に使用することで、日常生活が送りやすくなるよう調整します。「強い薬を使うと意識がなくなるのでは」と心配される方もいらっしゃいますが、専門的な知識を持った医師が、ご本人の「過ごしたい時間」を大切にしながら量を調整しますのでご安心ください。

自宅での点滴管理と水分補給

食欲がなく水分も十分に摂れない状態が続くと、脱水症状になり、倦怠感がさらに強まることがあります。このような場合、ご自宅で点滴を行うことが可能です。

訪問診療では、医師や看護師が定期的に訪問し、点滴のルート(管)を確保します。ご自宅での点滴は、病院のように24時間ずっと繋ぎっぱなしにするのではなく、必要な水分量や栄養素を補うために、時間を決めて行うことが一般的です。たとえば、夜間だけ、あるいは日中の数時間だけ点滴を行うことで、日常生活の動きを妨げないように配慮します。

また、皮下点滴という方法を用いれば、針を刺す痛みが少なく、管理も比較的容易になるため、ご家族の負担も軽減できる場合があります。

安心して過ごすための環境調整

支持療法は薬や点滴だけではありません。ご自宅の環境を整えることも重要なケアの一つです。

例えば、介護用ベッドを導入して起き上がりを楽にしたり、ポータブルトイレを設置して移動の負担を減らしたりすることは、体力の消耗を防ぐ上で非常に有効です。訪問診療の医師は、ケアマネジャーや訪問看護師と連携し、患者様の今の体力に合わせて、最も楽に過ごせる生活環境を提案します。

通院の負担をなくす「訪問診療」という選択肢

化学療法中止後の時期は、体力や免疫力が低下しており、外出そのものがリスクになることもあります。ここで、訪問診療に切り替えることのメリットについて整理してみましょう。

移動や待ち時間のない療養生活

最大のメリットは、やはり「通院しなくてよい」という点です。通院には、着替え、移動、受付、診察待ち、会計、薬局での待ち時間など、多くの工程が必要です。健康な人にとっては些細なことでも、倦怠感の強い患者様にとっては一日がかりの大仕事となり、帰宅後にはぐったりと疲れてしまうことがよくあります。

訪問診療では、医師がご自宅へ伺います。患者様はパジャマのままでも構いませんし、ベッドで横になったまま診察を受けることができます。移動の振動で気持ち悪くなる心配もありませんし、感染症をもらうリスクも低減できます。浮いた体力と時間を、ご家族との会話や趣味の時間、あるいは十分な休息に充てることができるのです。

夜間・休日もつながる安心感

ご自宅で過ごす上で一番の不安は、「夜中に急に具合が悪くなったらどうしよう」ということではないでしょうか。

多くの訪問診療クリニックでは、24時間365日の連絡体制を整えています。急な吐き気や痛みの増強、発熱などがあった場合でも、電話で医師や看護師に相談ができ、必要であれば往診(緊急訪問)を受けることができます。「いつでも相談できる相手がいる」という安心感は、患者様だけでなく、そばで支えるご家族にとっても大きな心の支えとなります。

病院との連携について

「訪問診療に切り替えると、これまでの病院との縁が切れてしまうのではないか」と心配される方もいらっしゃいますが、そのようなことはありません。

訪問診療医は、これまでかかっていた主治医と情報を共有し、連携を取りながら診療を行います。もし入院が必要な状況になった場合には、紹介元の病院や地域の連携病院へスムーズに入院できるよう手配を行います。これまでの治療経過を理解した上で、在宅での生活を支える役割を担うのが訪問診療医です。

在宅療養を始めるタイミングと相談の流れ

「まだ病院に通えるうちは、訪問診療は早いのではないか」と迷われる方も多いですが、訪問診療を検討するのに早すぎるということはありません。

「通院がつらい」と感じた時が相談のタイミング

具体的には、以下のような状況があれば、訪問診療への切り替えを検討するタイミングと言えます。

  • 通院の前日から気が重く、当日は帰宅後に寝込んでしまう。
  • 待合室で座って待っているのがつらい。
  • 家族の運転や介護タクシーでの移動中、車の揺れで気分が悪くなる。
  • 医師に相談したいことはあるが、診察室では焦ってしまい十分に話せない。
  • 最期まで自宅で過ごしたいと考えているが、準備の仕方がわからない。

特に化学療法を中止した後は、体調が変化しやすい時期です。無理をして通院を続けるよりも、早めに在宅医療の体制を整えておくことで、いざという時にも慌てずに対応できます。

まずは相談員やケアマネジャーへ連絡を

訪問診療を利用したい場合、まずは現在通院している病院の「地域連携室」や「医療相談室」の相談員、あるいは担当のケアマネジャーに「通院がつらくなってきたので、訪問診療を検討したい」と伝えてみてください。

まだ担当のケアマネジャーがいない場合や、どこに相談すればよいかわからない場合は、地域の訪問診療を行っているクリニックへ直接問い合わせてみるのも一つの方法です。多くのクリニックでは、医療ソーシャルワーカーや事務スタッフが、導入までの流れを丁寧に案内してくれます。

まとめ

化学療法を中止した後の吐き気や倦怠感は、適切な医療ケア(支持療法)を行うことで、緩和できる可能性が十分にあります。そして、そのケアは病院でしか受けられないものではなく、住み慣れたご自宅でも受けることができます。

通院の負担をなくし、ご自宅で点滴や症状緩和の処置を受けながら過ごすことは、患者様ご本人の「穏やかな時間」を守るための前向きな選択肢です。

ご自宅での療養に不安を感じている方、通院が限界だと感じているご家族の方は、ぜひ一度、私たちのような訪問診療クリニックにご相談ください。お一人おひとりの体調やご希望に合わせた、最適な療養生活のかたちを一緒に考えていきましょう。いつでもお気軽にお問い合わせください。

外来WEB予約外来WEB予約
お問い合わせお問い合わせ
電話する電話する