胆道がんでの黄疸・かゆみ—対症療法とスキンケアで不快感が軽くなった
胆道がん(胆管がんや胆嚢がんなど)の患者様を悩ませる症状の一つに、皮膚や白目が黄色くなる「黄疸」と、それに伴う強い「かゆみ」があります。痛みもつらいものですが、絶え間なく続くかゆみは、夜も眠れないほど患者様の体力や気力を奪ってしまうことがあります。
「体をかきむしってしまい、見ていてつらい」「薬を塗ってもなかなか治まらない」
ご自宅で療養されている患者様やご家族から、このような切実なご相談をいただくことは少なくありません。しかし、適切な医療的な処置と、ご自宅での丁寧なスキンケアを組み合わせることで、その不快感を和らげられる可能性があります。
この記事では、胆道がんで黄疸やかゆみが起こる理由と、病院や訪問診療で行える対症療法、そしてご家庭ですぐに取り入れられるケアの方法について解説します。つらい症状を少しでも軽くし、穏やかな時間を過ごすための参考にしていただければ幸いです。
なぜ胆道がんだと「黄疸」や「かゆみ」が起こるのか
まずは、どうしてこのような症状が現れるのか、体の仕組みについて少しだけ触れておきましょう。原因を知ることは、適切なケアを行うための第一歩となります。
胆汁の流れと黄疸の関係
私たちの肝臓では、「胆汁」という消化液が作られています。この胆汁は、「胆管」という管を通って十二指腸へと流れていきます。胆道がんによってこの胆管が狭くなったり、塞がったりすると、胆汁がうまく流れずにせき止められてしまいます。
行き場を失った胆汁は血液中に逆流し、全身に回ります。胆汁に含まれる「ビリルビン」という黄色い色素が皮膚や粘膜に沈着することで、肌や白目が黄色く見えるようになります。これが「閉塞性黄疸」と呼ばれる状態です。
かゆみが生じるメカニズム
黄疸が出ると、多くの場合で強いかゆみを伴います。これは、一般的な乾燥肌や虫刺されによるかゆみとは少し性質が異なります。
血液中にあふれ出した胆汁の中には、ビリルビン以外にも「胆汁酸」などの成分が含まれています。これらが皮膚の知覚神経を刺激したり、脳へかゆみの信号を送る神経伝達物質に影響を与えたりすることで、体の中から湧き上がってくるような強いかゆみが生じると考えられています。
このタイプのかゆみは、表面的な皮膚のトラブルだけが原因ではないため、一般的なかゆみ止めの塗り薬だけでは効果を感じにくいことがあるのです。
医療機関で行う対症療法
かゆみや黄疸の原因が胆道の閉塞にある場合、まずは医療的なアプローチで根本的な原因や症状そのものを緩和する方法を検討します。
胆汁の流れを良くする処置
お体の状態が許す場合、ふさがってしまった胆管を広げて、胆汁の流れを再開させる処置を行うことがあります。これを「胆道ドレナージ」と呼びます。
内視鏡を使って胆管の中に細い管(ステント)を通したり、お腹の外から管を通したりして、たまった胆汁を十二指腸や体の外へ排出させます。胆汁の流れが良くなれば、血液中のビリルビンなどの成分が減少し、黄疸やかゆみの劇的な改善が期待できます。
ただし、がんの進行状況や患者様の体力の低下具合によっては、こうした処置がお体への大きな負担となるため、実施が難しいケースもあります。そのような場合は、お薬によるコントロールが中心となります。
かゆみ止めの薬と使い分け
胆道がんによるかゆみに対しては、飲み薬や塗り薬を適切に使い分けることが大切です。
一般的なアレルギー用のかゆみ止め(抗ヒスタミン薬)が処方されることもありますが、前述の通り、黄疸によるかゆみには効きにくいことがあります。そのため、近年では脳に直接働きかけてかゆみを感じにくくするタイプのお薬や、体内の余分な成分を吸着して排出させるお薬などが使われるようになっています。
医師は患者様の症状の強さや、他に飲んでいる薬との飲み合わせなどを考慮して、最適なお薬を調整します。「薬が効かない」と感じている場合は、我慢せずに医師に相談し、処方の見直しを検討してもらうことが重要です。
自宅でできるスキンケアと環境調整
医療的な処置やお薬に加えて、ご自宅での日々のケアも非常に大きな役割を果たします。皮膚のバリア機能を保ち、刺激を減らすことで、かゆみの閾値を上げることができます。
保湿ケアの重要性と正しい塗り方
黄疸が出ている皮膚は非常に敏感になっており、乾燥するとかゆみがさらに増幅します。基本となるのは「保湿」です。
保湿剤は、お風呂上がりなどの皮膚が湿っているうちに塗るのが最も効果的です。すり込むのではなく、たっぷりの量を皮膚に乗せるように優しく広げてください。ティッシュが張り付くくらいの量が目安です。背中などご本人の手が届かない場所は、ご家族や訪問看護師などが手伝ってあげましょう。
また、かゆいからといって熱いお湯で体を洗ったり、ナイロンタオルでゴシゴシこすったりするのは逆効果です。ぬるめのお湯を使い、石鹸をよく泡立てて、手で優しく洗うように心がけてください。
かゆみを悪化させない生活の工夫
かゆみは、温度変化や衣類の刺激によっても引き起こされます。
- 室温の調整: 体が温まるとかゆみが増すことがあります。部屋を暖めすぎないようにし、夏場は涼しく保つことが大切です。就寝時に体が温まってかゆくなる場合は、保冷剤をタオルで巻き、かゆい部分を冷やすと落ち着くことがあります(冷やしすぎには注意してください)。
- 衣類の選び方: 化学繊維やウールなどのチクチクする素材は避け、肌に直接触れる下着やパジャマは、綿やシルクなどの肌触りの良い天然素材のものを選びましょう。締め付けの強いゴムなども刺激になるため、ゆったりとした服装がおすすめです。
- 爪の手入れ: 無意識にかきむしってしまい、傷ができるとそこから感染症を起こすリスクがあります。爪は短く切り、やすりで角を丸く整えておきましょう。夜間に無意識にかいてしまう場合は、手袋を着用するのも一つの方法です。
訪問診療でできるサポートと緩和ケア
通院が大変になってきた、あるいは自宅で最期まで過ごしたいと希望される場合、訪問診療を利用して症状をコントロールすることができます。
自宅での症状コントロール
訪問診療では、医師や看護師が定期的にご自宅を訪問し、患者様の様子を細かく観察します。黄疸の進行具合やかゆみの程度を確認し、その時々の状況に合わせてお薬の種類や量を調整します。
また、飲み薬が飲めなくなった場合でも、貼り薬や坐薬、あるいは皮下注射などを用いて、苦痛を取り除くための緩和ケアを行います。痛みやかゆみを我慢することなく、ご自宅で穏やかに過ごせるよう、医学的な管理を継続します。
ご家族の負担を減らすために
ご家族にとって、患者様が苦しんでいる姿を見るのは精神的にもつらいものです。「何をしてあげればいいのか分からない」という不安もあるでしょう。
訪問診療クリニックは、患者様だけでなく、ご家族のサポーターでもあります。スキンケアの具体的な方法を指導したり、介護の悩みを伺ったり、必要であれば訪問看護師やケアマネジャーと連携して、介護ベッドやエアマットの手配など環境を整えるお手伝いもします。
夜間や休日に急に体調が変わった場合でも、24時間365日連絡がつく体制を整えているクリニックが多いため、安心して在宅療養を続けていただけます。
まとめ
胆道がんによる黄疸とかゆみは、患者様にとって非常につらい症状ですが、決して「我慢するしかない」ものではありません。
医療機関での適切な処置や内服薬の調整、そしてご自宅での丁寧なスキンケアと環境調整を組み合わせることで、その不快感を軽くし、生活の質を保つことは可能です。
「かゆくて眠れない」「通院するのが体力的にきつくなってきた」と感じたら、一人で抱え込まず、私たちのような訪問診療クリニックにご相談ください。患者様が住み慣れたご自宅で、少しでも心穏やかに、心地よい時間を過ごせるよう、私たちが全力でサポートいたします。
まずは、今のつらい症状をお話しいただくことから始めませんか。いつでもお気軽にお問い合わせください。

