訪問診療コラム

大腸がんでの腹痛と便秘—支持療法と排便コントロールで日中の苦痛が減った

大腸がんの治療を続けていく中で、多くの患者様やご家族を悩ませるのが「お腹の痛み」と「便秘」です。がんそのものの影響だけでなく、治療に使われるお薬の副作用によっても、こうした症状は引き起こされます。

「お腹が張って苦しい」「便が出なくて食欲もわかない」「痛み止めの調整が難しい」といった悩みは、日常生活の質を大きく下げてしまう要因になります。しかし、これらは決して「我慢しなければならないもの」ではありません。

がんそのものを治す治療と並行して、つらい症状を和らげる「支持療法(しじりょうほう)」を適切に行い、排便のコントロールをしっかり管理することで、日中の苦痛を減らし、穏やかな時間を増やすことは十分に可能です。

この記事では、大腸がんの患者様が抱えやすい腹痛と便秘の原因、そしてそれらを和らげるための具体的なケアについて、在宅医療の視点から分かりやすく解説します。

なぜ大腸がんでは腹痛と便秘が起こりやすいのか

まずは、なぜこのような症状が起こるのか、その原因を知ることから始めましょう。原因は一つではなく、いくつかの要素が絡み合っていることが一般的です。

がんによる通り道の変化

大腸は便の通り道です。がんが大きくなると、腸の内側が狭くなり、便が通りにくくなることがあります。これを通過障害といいます。便やガスが詰まりやすくなることで、お腹が張ったり、キリキリとした痛みが生じたりします。完全に詰まってしまう前の段階でも、便秘と下痢を繰り返したり、残便感(出した後もすっきりしない感じ)が続いたりすることがあります。

痛み止め(医療用麻薬)による副作用

がんの痛みを抑えるためには、医療用麻薬(オピオイド)が非常に有効です。しかし、これらの薬には、腸の動きを弱めてしまうという代表的な副作用があります。痛みを取るために薬を使うと、今度は便秘になりやすくなり、その便秘が原因で腹痛やお腹の張りが強まってしまうという悪循環に陥ることが少なくありません。

生活リズムや食事の変化

体力が低下してベッドで横になっている時間が長くなると、腸の動きは自然と鈍くなります。また、食事の量が減ったり、水分摂取が不足したりすることも、便が硬くなる原因となります。さらに、腹筋の力が弱まることで、便を押し出す力が不足し、排便が困難になることもあります。

苦痛を和らげる「支持療法」と「排便コントロール」

つらい症状を和らげ、患者様らしい生活を支えるための医療的ケアを「支持療法」と呼びます。特に大腸がんにおいては、痛みの管理と排便のコントロールをセットで考えることが非常に重要です。

痛み止めと下剤のバランス調整

痛みがあるからといって痛み止めを増やすだけでは、便秘が悪化して逆にお腹の苦しさが増してしまうことがあります。そのため、医療用麻薬を使用する際は、原則として下剤も一緒に使用します。

便を柔らかくするお薬や、腸の動きを刺激するお薬を、患者様の状態に合わせて細かく調整します。「昨日は便が出なかったから、今日は少し下剤を増やそう」「下痢気味だから少し減らそう」といった微調整をこまめに行うことで、痛み止めを効かせつつ、便秘による苦痛を防ぐことができます。

閉塞感がある場合の対応

腸が狭くなっている可能性がある場合、腸を無理に動かすタイプの下剤を使うと、強い腹痛を引き起こすリスクがあります。そのため、便を柔らかくして通りやすくするタイプのお薬を中心にしたり、医療的な処置で排便を促したりする方法を選びます。

状況によっては、点滴で水分を補ったり、お腹の張りを取るお薬を使ったりして、腸の負担を減らすケアを行います。こうした専門的な判断と調整が、日中の快適さを取り戻す鍵となります。

ご自宅で過ごすための工夫とケア

お薬の調整だけでなく、日々の生活の中でのちょっとした工夫やケアも、症状の緩和に役立ちます。ご本人やご家族ができることを見ていきましょう。

排便のリズムを作る

たとえ便意がなくても、朝食後など決まった時間にトイレに座る、あるいはベッド上でポータブルトイレに座ってみる習慣をつけることは、腸のリズムを整える助けになります。座ることが難しい場合は、リラックスできる体勢でお腹を「の」の字に優しくマッサージするのも良いでしょう。ただし、痛みが強い時やお腹が張っている時は無理に行わないでください。

食事と水分の工夫

食事がとれる場合は、消化が良く、腸に負担をかけないものを選びます。食物繊維は一般的に便秘に良いとされていますが、腸が狭くなっている方の場合は、逆に詰まりやすくなる原因になることもあるため注意が必要です。医師や管理栄養士に相談しながら、水分をこまめに摂るゼリーやスープなどを活用するのも一つの方法です。

温めるケア(温罨法)

お腹の痛みや張りがあるとき、温かいタオルや湯たんぽで優しくお腹や腰を温めると、筋肉の緊張がほぐれて痛みが和らぐことがあります。また、温めることで腸の血流が良くなり、動きがスムーズになる効果も期待できます。心地よいと感じる範囲で行ってみてください。

通院が大変になってきたら「訪問診療」の活用を

痛みや便秘のコントロールは、体調の変化に合わせて日々調整が必要です。しかし、体力が低下している中で、頻繁に病院へ通い、長時間待合室で過ごすことは、患者様にとってもご家族にとっても大きな負担となります。

そのような時に検討していただきたいのが、医師や看護師が自宅に来てくれる「訪問診療」です。

自宅で受けられる医療処置

訪問診療では、定期的な診察やお薬の処方はもちろん、必要に応じた医療処置を自宅で受けることができます。例えば、ご自分やご家族だけでは難しい「摘便(てきべん)」や「浣腸」などの処置も、プロの手で適切に行うことができます。

便が詰まって苦しい時に、病院に行かなくても自宅ですぐに対応してもらえることは、患者様の安心感に直結します。また、痛みのコントロールについても、点滴や注射などを含めた幅広い選択肢の中から、ご自宅で可能な方法を提案できます。

24時間365日の安心感

訪問診療クリニックの多くは、24時間365日の連絡体制を整えています。「夜中にお腹が痛くなったらどうしよう」「急に便が出なくなって苦しがっている」といった不安な時にも、電話で医師や看護師の指示を仰いだり、必要に応じて往診を依頼したりすることができます。

「何かあったらすぐに相談できる相手がいる」ということは、ご家族の介護負担や精神的な不安を大きく軽減することにつながります。

まとめ

大腸がんによる腹痛や便秘は、適切な支持療法と排便コントロールによって、その苦痛を大きく減らすことができます。痛みが和らぎ、お腹がスッキリすることで、食欲が戻ったり、ご家族と笑顔で会話できる時間が増えたりするケースは数多くあります。

「もう治らないから仕方がない」「家で過ごすのは無理かもしれない」とあきらめる前に、まずは専門家に相談してみてください。痛みや苦しさを取り除く方法は、一つではありません。

当クリニックでは、患者様お一人おひとりの身体の状態や生活スタイルに合わせた、きめ細やかなサポートを行っています。通院が難しくなってきたと感じたり、ご自宅での療養に不安を感じたりした際は、どうぞお気軽にご相談ください。患者様が住み慣れた場所で、一日でも多く穏やかな時間を過ごせるよう、私たちが全力で支えます。

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