訪問診療コラム

ゲーム依存で昼夜逆転—家庭内ルール設計と多職種連携で生活が整った

ゲームに没頭するあまり、気づけば朝になっていた。昼夜が逆転し、学校や仕事に行けなくなるだけでなく、食事や睡眠といった基本的な生活リズムまで崩れてしまう。このような状況に心を痛めているご本人や、どう声をかければよいか悩んでいるご家族は少なくありません。

「やめられないのは意志が弱いからだ」と自分を責めたり、つい感情的に怒ってしまったりすることもあるでしょう。しかし、ゲームへの過度な没入やそれに伴う生活の乱れは、個人の性格だけの問題ではなく、適切な対処が必要な状態である場合が多いのです。

この記事では、昼夜逆転した生活を立て直すために有効な「家庭内ルールの設計」と、医療や福祉の専門家と協力する「多職種連携」のアプローチについて解説します。ご家庭だけで抱え込まず、少しずつ生活を整えていくためのヒントとしてお役立てください。

ゲーム依存と昼夜逆転のメカニズム

生活が乱れてしまう背景には、単なる「遊びすぎ」では片付けられない、心と体のメカニズムが関係していることがあります。まずは、なぜ今の状況が起きているのかを理解することから始めましょう。

コントロールが難しくなる理由

ゲームには、プレイヤーを熱中させるための様々な工夫が凝らされています。目標を達成したときの達成感や、仲間とのつながりを感じることで、脳内では快感を感じさせる物質が分泌されます。これ自体は悪いことではありませんが、過度になると「やめたいのにやめられない」「時間を守ろうと思っても守れない」というコントロール喪失の状態に陥ることがあります。

これは意志の強さとは関係なく、誰にでも起こりうることです。特に、現実世界でストレスや不安を感じている場合、ゲームの世界が心の居場所となり、そこから離れることに強い不安を感じるようになってしまうこともあります。その結果、睡眠時間を削ってまで没頭し、昼夜逆転が定着してしまうのです。

生活リズムの乱れが招く悪循環

昼夜逆転が続くと、日光を浴びる機会が減り、睡眠を司るホルモンのバランスが崩れます。すると、夜眠れなくなり、さらにゲームをしてしまうという悪循環に陥ります。

また、食生活の乱れや運動不足により体力が低下し、日中の活動が億劫になることもあります。このような身体的な不調は、気力の低下やイライラといった精神的な不安定さにもつながり、ご家族とのコミュニケーションを難しくさせる要因にもなります。まずは「乱れた生活リズムを整えること」が、心の安定を取り戻すための第一歩となります。

無理なく続く「家庭内ルール」の設計

生活を立て直すためには、ある程度のルールが必要です。しかし、一方的に「ゲームは1日1時間」と禁止しても、反発を招くだけでうまくいかないことが多いものです。大切なのは、お互いが納得し、継続できるルールを作ることです。

一方的な禁止ではなく「合意」を目指す

ルール作りで最も重要なのは、ご本人の意思を尊重することです。頭ごなしに禁止するのではなく、今の生活についてどう感じているか、今後どうなりたいかという希望を聞くことから始めましょう。

「朝起きられるようになりたい」「体調を良くしたい」といった前向きな目標があれば、そのためにどうすればよいかを一緒に考えます。「夜中の2時には寝るようにする」「食事の時間はゲームを止める」など、ご本人が「これならできそうだ」と思えるラインを探り、合意の上でルールを決めることが大切です。自分で決めたルールであれば、守ろうとする意識も働きやすくなります。

スモールステップで目標を設定する

最初から完璧な生活を目指す必要はありません。長期間昼夜逆転していた場合、急に朝型の生活に戻すことは身体的にも大きな負担となります。

まずは「起きる時間を1時間だけ早める」「日中にカーテンを開けて日光を浴びる」といった、小さな目標(スモールステップ)から始めましょう。できたことを認め合い、達成感を積み重ねていくことが、自信の回復につながります。うまくいかない日があっても責めず、「どうすれば次はうまくいくか」を冷静に話し合う姿勢が、長期的な改善への鍵となります。

「多職種連携」で支える生活の立て直し

ご家庭の中だけで問題を解決しようとすると、どうしても感情的になったり、行き詰まったりすることがあります。そんなときに力になるのが、医療や福祉の専門家によるチームでのサポート、すなわち「多職種連携」です。

医療・福祉の専門家ができるサポート

生活の立て直しには、さまざまな視点からのアプローチが必要です。医師は睡眠リズムの調整や心身の健康状態の管理を行い、必要に応じて医学的なアドバイスを行います。看護師は日々の生活状況を把握し、具体的な生活指導や健康相談に乗ります。

また、精神保健福祉士やケアマネジャーなどの福祉スタッフは、社会的なサービスの活用を提案したり、就労や就学に向けた環境調整を手伝ったりします。心理士がいれば、カウンセリングを通じて心の悩みを整理するサポートも可能です。

このように、それぞれの専門家が連携し、チームとしてご本人とご家族を支えることで、多角的な視点から解決策を見出すことができます。

訪問診療という選択肢

ゲーム依存や昼夜逆転の状態にある方の中には、外出すること自体に高いハードルを感じ、病院へ行くことが難しいケースも少なくありません。そのような場合に有効なのが「訪問診療」です。

訪問診療では、医師や看護師が定期的にご自宅を訪問します。ご本人がリラックスできる自宅という環境で診療を受けられるため、通院のストレスがありません。また、実際の生活環境を見ることで、より具体的で実践的なアドバイスが可能になります。

「病院に行く」というプレッシャーから解放されることで、徐々に心を開き、治療や生活改善に向けて前向きになれる方もいらっしゃいます。訪問診療は、社会とのつながりを取り戻すための最初の架け橋となることができます。

家族が孤立しないために

ご家族にとって、昼夜逆転して部屋にこもりがちなご本人の姿を見ることは、大きな心配でありストレスでもあります。「自分の育て方が悪かったのではないか」と悩み、誰にも相談できずに孤立してしまうこともあります。

しかし、ご家族が倒れてしまっては元も子もありません。専門家に相談することは、ご本人を助けるだけでなく、ご家族自身の心の負担を軽くすることにもつながります。第三者が介入することで、家庭内の緊張が和らぎ、冷静な話し合いができるようになるケースも多くあります。

訪問診療クリニックなどの地域医療機関は、患者様ご本人だけでなく、支えるご家族の味方でもあります。今の状況を話すだけでも気持ちが楽になることがありますので、決して一人で抱え込まないでください。

まとめ

ゲーム依存による昼夜逆転からの回復は、一朝一夕にはいきませんが、適切な「家庭内ルールの設計」と、専門家による「多職種連携」があれば、必ず生活は整っていきます。

大切なのは、ご本人の気持ちに寄り添いながら、焦らず少しずつ進んでいくことです。そして、その道のりを家族だけで歩む必要はありません。

私たちのような訪問診療クリニックは、通院が難しい方のための医療機関です。ご自宅に伺い、医療的なケアはもちろん、生活リズムを整えるための相談や、ご家族のサポートも行っています。

「どう対応していいかわからない」「まずは話だけでも聞いてほしい」という段階でも構いません。生活を立て直し、穏やかな日常を取り戻すために、私たちにお手伝いさせてください。いつでもご相談をお待ちしております。

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