訪問診療コラム

てんかん発作で救急搬送が多い—発作時対応プラン作成で不安が軽くなった

ご家族にてんかんの持病がある場合、突然の発作は何度経験しても慣れるものではありません。「息が止まっているのではないか」「このまま意識が戻らないのではないか」という恐怖から、慌てて救急車を呼んでしまうことは、ご家族として当然の心理です。

しかし、頻繁に救急搬送を繰り返すことは、患者様ご本人の体力を消耗させるだけでなく、付き添うご家族にとっても大きな精神的・身体的負担となります。「また救急車を呼んでしまった」「病院に着くころには発作が治まっていて、そのまま帰宅することになった」という経験を重ね、どう対応するのが正解なのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

この記事では、てんかん発作による救急搬送への不安を和らげ、より安心して自宅で過ごすための「発作時対応プラン」について解説します。あらかじめ対応を決めておくことが、いざという時の大きな支えとなります。

繰り返す救急搬送とご家族の葛藤

てんかん発作には様々なタイプがありますが、意識を失って倒れたり、全身を痙攣させたりする発作は、見ている側にとって非常に衝撃的なものです。そのため、とっさに救急要請をしてしまうのは無理もありません。しかし、その結果としていくつかの課題が生じることがあります。

「もしもの時」の判断基準が曖昧な不安

最も大きな悩みは、目の前の発作が「緊急性が高い危険なもの」なのか、それとも「いつもの発作で、自宅で様子を見てよいもの」なのか、その場では判断がつかないことではないでしょうか。

医療的な知識がない中で命に関わる判断を迫られるプレッシャーは計り知れません。「もし救急車を呼ばずに手遅れになったらどうしよう」という不安が常に勝るため、結果として毎回救急車を呼ぶことになり、生活が常に緊張状態になってしまいます。

搬送後の帰宅や身体的負担

救急車で病院へ搬送されたものの、到着した頃には発作が落ち着き、意識も戻っているというケースは少なくありません。そのまま点滴や検査だけで帰宅となる場合、夜間や早朝であれば移動手段の確保も大変ですし、何より発作直後でぐったりしている患者様を連れて帰るのは重労働です。

これが度重なると、患者様もご家族も疲弊してしまい、在宅での療養生活を続ける自信を失ってしまうことにもつながりかねません。

「発作時対応プラン」で変わる療養生活

こうした状況を改善するために有効なのが、訪問診療などを利用して作成する「発作時対応プラン」です。これは、医師と相談しながら、発作が起きたときに具体的にどう行動するかをあらかじめ決めておく手順書のようなものです。

事前に「アクション」を決めておく重要性

人間はパニックになると、何をすべきか分からなくなってしまいます。しかし、「発作が起きたら、まずは時計を見て時間を計る」「衣服を緩めて横向きにする」「5分以上痙攣が続く場合のみ救急車を呼ぶ」といった具体的なルールが明確になっていれば、落ち着いて行動しやすくなります。

このルールは一般的なものではなく、その患者様の発作の傾向や頻度、過去の経過などを踏まえて、医師が個別に作成します。「ここまでなら大丈夫」「これを超えたら病院へ」という線引きが明確になるだけで、ご家族の心の負担は大きく軽減されます。

医師による医学的な裏付けがある安心感

自分たちだけの判断で「救急車を呼ばない」と決めるのは怖いことですが、医師から「こういう状態なら、自宅で様子を見ても医学的に問題ありません」というお墨付きがあれば、自信を持って対応できるようになります。

もちろん、プランを作成したからといって、絶対に救急車を呼んではいけないわけではありません。判断に迷う場合や、いつもと様子が違うと感じた場合には、ためらわず救急要請をして良いのです。重要なのは、「必ず呼ばなければならない」という切迫感から解放されることです。

訪問診療(在宅医療)だからできるきめ細やかなサポート

定期的に医師が自宅を訪問する「訪問診療」を利用することで、発作時対応プランはより実効性の高いものになります。病院の外来通院だけでは難しい、生活の場に即した管理が可能になるからです。

生活環境に合わせた具体的なアドバイス

訪問診療では、医師や看護師が患者様が実際に過ごしているお部屋や環境を確認します。そのため、「発作が起きたときに怪我をしないような家具の配置」や「トイレや入浴中のリスク管理」など、生活に密着した具体的なアドバイスが可能です。

また、ご家族の介護力や不安の度合いに合わせて、プランの内容を柔軟に調整することもできます。医学的な正しさだけでなく、「ご家族が実行可能かどうか」という視点を大切にできるのが在宅医療の強みです。

発作予防のコントロールと頓服薬の活用

定期的な訪問診療を通じて、普段の様子や発作の予兆を細かく観察することで、予防的な薬の調整(コントロール)をよりきめ細やかに行うことができます。

さらに、発作が起きそうになった時や、起きてしまった直後に使用する「頓服薬(座薬など)」をあらかじめ処方し、ご家族が使用できるように指導することも可能です。これにより、自宅で発作を鎮めたり、重積発作(発作が止まらない状態)を防いだりする手段を持つことができ、救急搬送の頻度を減らすことにつながります。

また、訪問診療を行っているクリニックの多くは、24時間365日の連絡体制を整えています。発作時に電話で医師や看護師の指示を仰ぐことができるため、「プラン通りに対応していいのか不安」という時でも、すぐに専門家のサポートを受けられる安心感があります。

相談することで開ける選択肢

てんかん発作による救急搬送の繰り返しは、出口の見えないトンネルのように感じられるかもしれません。しかし、適切な医療サポートと事前の準備があれば、その不安をコントロール可能なものに変えていくことは十分に可能です。

一人で抱え込まず専門家とチームを作る

在宅療養は、ご家族だけで頑張るものではありません。医師、看護師、ケアマネジャーなどがチームとなって支えるものです。

「発作が怖くて夜も眠れない」「救急車を呼ぶ判断にいつも迷う」といった悩みは、決して小さなことではありません。まずは訪問診療を行っているクリニックに相談し、現状の困りごとを話してみてください。

それぞれの患者様に合った「発作時対応プラン」を作成し、薬の調整や緊急時の連絡体制を整えることで、穏やかな日常を取り戻すお手伝いができるはずです。

まとめ

てんかん発作への対応は、事前の準備と専門家との連携で大きく変わります。発作時対応プランを作成することは、単なるマニュアル作りではなく、患者様とご家族が安心して暮らすための「お守り」を作ることと言えるでしょう。

「いつ発作が起きるかわからない」という不安を、「もし起きてもこう対応すれば大丈夫」という安心に変えていくために、ぜひ一度、在宅医療の専門家に相談してみてください。私たちも、地域のかかりつけ医として、皆様の不安に寄り添い、共に考える存在でありたいと願っています。

どうぞお一人で悩まず、お気軽にお問い合わせください。

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