褥瘡が治らない—体位変換・圧抜きと栄養強化で創が縮小した
ご自宅で療養されている患者様や、そのケアをされているご家族にとって、「褥瘡(床ずれ)」は非常に大きな悩みの種ではないでしょうか。毎日処置をして、薬を塗っているにもかかわらず、傷がなかなか塞がらない、あるいは徐々に悪化しているように見える。そんな状況が続くと、「私のケアが悪いのではないか」「このまま治らないのではないか」と不安が募ってしまうものです。
褥瘡のケアは、塗り薬などの医療的な処置ももちろん大切ですが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に「環境の調整」と「身体の内側からのケア」が重要になります。具体的には、皮膚にかかる圧力を取り除くこと、そして傷を治すための材料となる栄養をしっかり摂ることです。
この記事では、なかなか治らない褥瘡にお悩みの方に向けて、改善の突破口となりうる「体位変換・圧抜き」のコツと、「栄養強化」の重要性について、分かりやすく解説します。ご自宅でのケアを見直すヒントとして、ぜひお役立てください。
なぜ褥瘡(床ずれ)がなかなか治らないのか
一生懸命ケアをしていても褥瘡が治らない場合、傷そのものの処置ではなく、傷ができる「原因」が取り除かれていない可能性があります。褥瘡は単なる傷ではなく、皮膚への圧迫によって血流が悪くなり、組織が壊死してしまう病態だからです。
原因の多くは「持続的な圧迫」と「ずれ」
褥瘡が発生し、治りにくくなる最大の要因は、同じ場所に長時間、体重がかかり続けることです。特に、骨が出っ張っている部分(仙骨やかかとなど)は圧力が集中しやすく、血行不良になりがちです。
また、意外と見落とされがちなのが「ずれ」の力です。例えば、ベッドの背上げを行う際に、体がずり落ちるような力が加わると、皮膚表面と内部の組織の間でずれが生じ、血管が引き伸ばされて血流が途絶えてしまいます。この「ずれ」と「圧迫」が残っている限り、どんなに良い薬を使っても、傷の改善は難しくなってしまいます。
治る力を弱める「低栄養」の状態
もう一つの大きな要因が、患者様ご本人の「治癒力」の問題です。傷を治すためには、新しい細胞や組織を作る必要がありますが、そのためのエネルギーや材料が不足していると、傷は一向に縮小しません。
高齢の患者様や、飲み込みの機能が低下している方の場合、知らず知らずのうちに「低栄養状態」に陥っていることがあります。見た目には痩せていなくても、傷を治すために必要な特定の栄養素が不足しているケースも少なくありません。
改善の鍵となる「体位変換」と「圧抜き」のポイント
褥瘡を治癒に向かわせるためには、まず物理的な原因を取り除くことが最優先です。ここでは、日々の介護ですぐに実践できる、より効果的な体位変換と圧抜きの方法をご紹介します。
ただ向きを変えるだけではない「ポジショニング」
「2時間おきに体位変換をしているけれど治らない」という場合、姿勢の保持方法(ポジショニング)を見直すことで状況が変わることがあります。
単に体の向きを変えるだけでは、結局また別の骨の出っ張った部分に強い圧力がかかってしまうことがあります。重要なのは、クッションや枕を有効に使い、体重を広い面積で受け止めることです。
例えば、体の下にクッションを入れる際は、隙間を埋めるように広く当て、特定の点に重さが集中しないようにします。特に「30度側臥位」と呼ばれる、完全に横を向くのではなく、少し傾ける程度の姿勢は、骨への圧迫を分散させやすく、褥瘡ケアにおいて推奨されています。
介護のプロも実践する「圧抜き(背抜き)」
ベッドの背上げや背下げを行った後、あるいは体位変換をした直後には、必ず「圧抜き(背抜き)」を行うことが非常に重要です。
体位を変えた直後の患者様の背中や臀部は、シーツや衣類との摩擦で皮膚が引っ張られ、突っ張った状態になっています。これが先ほど触れた「ずれ」の原因です。
この突っ張りを解消するために、背中とマットレスの間に手を入れて、優しく滑らせるようにして皮膚の引っ張りを直してあげます。また、足元を持ち上げてから下ろす「足抜き」も効果的です。このひと手間を加えるだけで、皮膚への負担が劇的に減り、血流が再開されるため、傷の治りが早まることが期待できます。
傷を治す力を内側から支える「栄養強化」
外側からの圧迫を取り除いたら、次は内側から傷を治す力を高めましょう。栄養状態の改善は、褥瘡治療において薬と同じくらい重要な治療の一環です。
褥瘡治癒に不可欠な栄養素
傷を治すために特に意識して摂取したいのが、「タンパク質」「エネルギー(カロリー)」「亜鉛」「ビタミン類」です。
- タンパク質:筋肉や皮膚を作る材料となります。肉、魚、卵、大豆製品などに多く含まれます。
- エネルギー:体を動かし、細胞を修復するための燃料です。不足すると、体は自身の筋肉を分解してエネルギーにしてしまうため、さらに痩せて褥瘡ができやすくなります。
- 亜鉛:新しい皮膚ができるのを助ける重要なミネラルです。
- ビタミンC・A:コラーゲンの生成を助け、免疫力を高めます。
通常の食事だけでこれらを十分に摂るのが難しい場合は、高カロリーの栄養補助食品(ゼリーやドリンクタイプなど)を活用するのも一つの手です。
食事が摂りにくい場合の対処法
「食欲がない」「飲み込みが悪くて量が食べられない」という悩みを持つ方も多いでしょう。無理に食事量を増やすと、誤嚥のリスクや胃腸への負担となることもあります。
そのような場合は、少量で高栄養が摂れる工夫が必要です。おかゆにタンパク質の粉末を混ぜたり、デザート感覚で食べられる栄養補助食品を取り入れたりします。また、脱水状態も皮膚の乾燥や血流悪化を招くため、水分の管理も大切です。
口からの摂取がどうしても難しい場合は、点滴による補給など、医療的なアプローチが必要になることもありますので、早めに医師に相談することをお勧めします。
専門家のサポートで安心できる在宅療養を
褥瘡のケアは、ご家族だけで抱え込むにはあまりにも負担が大きく、専門的な判断が必要な場面も多々あります。「なかなか良くならない」と感じたら、訪問診療クリニックなどの専門家に頼ることを検討してください。
訪問診療医や看護師ができること
訪問診療では、医師や看護師が定期的にご自宅を訪問し、褥瘡の状態を専門的な視点で観察します。
- 傷の状態に合わせた適切な塗り薬や被覆材(ドレッシング材)の選定
- 壊死した組織を取り除く処置(デブリードマン)
- ご自宅の環境(ベッドやマットレス)に合わせたポジショニングの指導
- 血液検査などに基づいた栄養状態の評価と、具体的な栄養指導
これらを総合的に行うことで、停滞していた治療が一気に進むことも珍しくありません。また、エアマットの導入が必要かどうかの判断や、導入時の設定調整についてもアドバイスが可能です。
チームで支える褥瘡ケア
褥瘡の治療はチーム戦です。医師、看護師だけでなく、ケアマネジャー、薬剤師、管理栄養士、ヘルパーなどが連携し、それぞれの専門性を活かして患者様とご家族を支えます。
「体位変換が大変で腰が痛い」「どんな食事を用意すればいいか分からない」といったご家族の悩みも、ぜひ私たちに聞かせてください。介護負担を減らしながら、効果的にケアを継続できる方法を一緒に考えます。
まとめ
褥瘡が治らないときは、薬だけでなく「圧迫の解除(体位変換・圧抜き)」と「栄養状態の改善」の両輪を見直すことが、創を縮小させるための近道です。
- 体位変換では、骨への圧迫を避けるポジショニングを意識する。
- 動かした後には必ず「圧抜き」をして、皮膚のずれを解消する。
- タンパク質や亜鉛など、傷を治すための栄養を積極的に摂る。
これらを毎日続けることは、ご家族にとって大変な労力かと思います。もし、ご自宅でのケアに行き詰まりを感じたり、専門的なアドバイスが欲しいと思われたりした際は、いつでもご相談ください。
すみだ両国まちなかクリニックでは、患者様お一人おひとりの生活環境に合わせた無理のないケア方法を提案し、傷の治癒に向けて全力でサポートいたします。一緒に、より良い療養生活を目指していきましょう。

