ふらつきと転倒が増えた多剤併用—お薬整理で歩行が安定した
年齢を重ねるにつれて、持病が増え、それに伴い処方されるお薬の数も増えていくことは珍しくありません。整形外科、内科、眼科など、複数の医療機関にかかることで、気がつけば1日に10種類以上のお薬を飲んでいるという方もいらっしゃいます。
もし今、ご自身やご家族が「最近、ふらつきやすくなった」「家の中で転倒することが増えた」と感じているならば、それは年齢のせいだけではなく、お薬の飲み合わせや量による影響(多剤併用)かもしれません。
この記事では、多くのお薬を服用することで生じるリスクや、専門家のサポートを受けてお薬を整理することで生活がどう変わる可能性があるのかについて、分かりやすく解説します。お薬への不安を解消し、より安心して日々を過ごすための参考にしていただければ幸いです。
「多剤併用(ポリファーマシー)」が引き起こすふらつきのリスク
複数の病気を治療するために多くのお薬を服用している状態を、医療用語で「多剤併用(ポリファーマシー)」と呼ぶことがあります。もちろん、病気の治療に必要なお薬は大切ですが、必要以上に種類が増えてしまうことで、体に予期せぬ影響が出てしまうケースがあります。
なぜ薬が増えると転倒しやすくなるのか
お薬にはそれぞれ、病気を治すための「主作用」と、それ以外の作用である「副作用」があります。一つ一つのお薬は安全に使えていても、複数の種類を同時に飲むことで、お互いの作用が強まったり、逆に打ち消しあったりすることがあります。
特に高齢の方の場合、肝臓や腎臓の働きが若い頃よりも穏やかになっているため、お薬の成分が体の中から抜けにくく、効きすぎてしまう傾向があります。
よくある例として、睡眠薬や安定剤、痛み止め、血圧を下げるお薬などの影響が挙げられます。これらが重なることで、日中の眠気、注意力散漫、めまい、筋力の脱力などが生じることがあります。その結果、何もない廊下でつまずいたり、ベッドから立ち上がった瞬間にふらついたりして、転倒や骨折につながるリスクが高まってしまうのです。
身体機能への影響と「負の連鎖」
ふらつきや転倒への不安があると、どうしても動くのが怖くなり、外出を控えたり、家の中でも座っている時間が長くなったりしがちです。活動量が減ると、当然ながら足腰の筋力はさらに低下します。すると、ますます転びやすくなるという「負の連鎖」に陥ってしまうことがあります。
また、お薬の数が多いと管理自体が難しくなります。「朝の分を飲み忘れたから昼にまとめて飲もう」といった誤った飲み方をしてしまったり、飲み間違いが起きたりすることで、体調が不安定になることもあります。
このように、単に「薬を飲んでいる」というだけでなく、それが日常生活の活動度や安全性にまで影響を及ぼしている場合は、一度処方内容を見直してみる価値があります。
お薬整理で期待できる変化と注意点
「長年飲んでいる薬だから変えるのは怖い」「薬を減らすと病気が悪化するのではないか」と不安に思う方も多いでしょう。しかし、今の身体の状態に合わせて適切にお薬を整理・調整することで、生活の質が改善するケースは多く見られます。
減薬・調整による歩行安定の可能性
医師や薬剤師の管理のもと、現在の症状や体調に本当に必要なお薬だけに絞り込んだり、種類を変更したりすることを「お薬整理」といいます。
例えば、ふらつきの原因となっていた可能性のあるお薬を減らしたり、より副作用の少ないタイプに変更したりすることで、頭がすっきりとして日中の覚醒度が上がることがあります。意識がはっきりすることで足元への注意が行き届くようになり、筋力の脱力感が軽減されれば、歩行が以前より安定することも期待できます。
「以前は壁につかまらないと歩けなかったけれど、お薬を見直したら杖だけで歩けるようになった」といった変化は、決して珍しいことではありません。歩行が安定すれば、トイレへの移動も楽になり、ご本人の自信にもつながります。
自己判断での中止は危険です
ここで一つ、非常に重要な注意点があります。それは、患者様ご自身の判断で急にお薬をやめたり、減らしたりしてはいけないということです。
急に服用を中止すると、リバウンド現象で症状が急激に悪化したり、離脱症状が出たりすることがあり大変危険です。お薬の整理は、必ず医師の医学的な判断のもと、慎重に、そして段階的に行う必要があります。体調の変化を細かく観察しながら進めていくことが、安全な調整の鍵となります。
訪問診療だからできる「生活に合わせた」お薬管理
通院が難しくなってきた方にとって、訪問診療は単に「家に来てくれる」だけでなく、お薬の悩みを解決する大きなきっかけになることがあります。病院の外来診察室では見えにくい、生活の場での情報が活用できるからです。
医師と薬剤師の連携による見直し
訪問診療では、医師が定期的にご自宅を訪問し、患者様の普段の様子や生活環境を直接確認します。また、訪問薬局の薬剤師と連携することで、より専門的な視点からお薬の管理を行うことができます。
複数の病院から処方されているお薬をすべてテーブルに並べて確認し、「重複しているお薬はないか」「今の症状に対して本当に必要か」「飲み合わせは問題ないか」を総合的にチェックします。これを「処方の一元管理」といいます。これにより、不要なお薬を整理し、シンプルで安全な処方へと整えていくことが可能です。
自宅での様子を見るからこそできる提案
診察室では緊張して「大丈夫です」と答えてしまう患者様でも、ご自宅のリラックスした環境であれば、医師に対して「実は薬が飲みにくい」「夜トイレに起きるときにふらつく」といった本音を話しやすくなるものです。
また、医師は「家のどこに手すりがあるか」「どのような段差があるか」といった住環境や、ご家族の介護力も把握できます。
「飲み忘れが多いなら、一包化(1回分を1袋にまとめること)しましょう」
「カレンダーを使って飲み忘れを防ぎましょう」
「ふらつきが出やすい時間帯は、ご家族がそばにいるようにしましょう」
といった、それぞれの生活スタイルに合わせた具体的で実践的なアドバイスができるのも、訪問診療の大きな強みです。
まとめ
お薬は病気の治療や症状の緩和に欠かせないものですが、種類や量が増えすぎると、ふらつきや転倒といった思わぬトラブルの原因になることがあります。特に高齢の方の場合、体調の変化に合わせて定期的にお薬を見直すことが、長く元気に暮らすための秘訣とも言えます。
もし、「最近薬が増えて心配」「ふらつきが気になるけれど、どの病院に相談していいか分からない」とお悩みであれば、ぜひ一度ご相談ください。私たち訪問診療のクリニックでは、患者様一人ひとりの生活や体調に寄り添いながら、医師と薬剤師が連携して、安全で安心できるお薬の管理をサポートいたします。
お薬の整理を通じて、足取りが軽くなり、ご家族との笑顔の時間が増えるようお手伝いができれば幸いです。まずはお気軽にお問い合わせください。

