訪問診療コラム

胃ろうの詰まり・下痢が続く—注入速度と製剤の調整で安定した

胃ろう(PEG)を造設され、ご自宅での療養生活を始められた患者様や、そのご家族の方からよく寄せられるお悩みに、「カテーテルの詰まり」や「長引く下痢」があります。

「きちんと管理しているはずなのに、なぜかチューブが詰まってしまう」

「栄養剤を入れるたびにお腹を下してしまい、ご本人も辛そうで見ていられない」

このようなトラブルが続くと、介護をされているご家族の負担は大きくなり、なにより患者様ご本人の体力が低下してしまうのではないかと不安になってしまうことでしょう。

実は、こうした胃ろうのトラブルは、「栄養剤を入れるスピード(注入速度)」や「使っている栄養剤の種類(製剤)」を少し調整するだけで、驚くほど状況が改善するケースが少なくありません。

この記事では、胃ろう管理で起こりやすい詰まりや下痢の原因と、それを解消するための具体的な調整方法について、わかりやすく解説します。毎日のケアが少しでも穏やかなものになるよう、ぜひ参考にしてください。

なぜ胃ろうのトラブルが起きるのでしょうか?

胃ろうは、口から食事を摂ることが難しい方にとって、栄養と水分を確実に補給できる大切な生命線です。しかし、人工的なチューブを通して栄養を送るという仕組み上、どうしてもいくつかのトラブルが起きやすくなります。まずは、主な原因を知ることから始めましょう。

チューブが詰まってしまう原因

カテーテルの詰まりは、いざ栄養剤を入れようとしたときに発覚することが多く、焦ってしまうトラブルの一つです。主な原因としては、以下のようなことが考えられます。

まず多いのが、お薬の詰まりです。粉薬や砕いた錠剤が完全に溶けきっていない状態で注入したり、数種類のお薬を混ぜた際に化学反応で固まってしまったりすることがあります。また、栄養剤に含まれるタンパク質が、胃液や酸性の飲み物(果汁ジュースなど)と接触して固まり、カテーテルの先端に付着することもあります。

さらに、注入後の「フラッシュ(洗い流し)」が不十分だと、チューブ内に残った栄養剤が時間の経過とともに固着し、通り道を塞いでしまうこともあります。細いチューブの中は外から見えにくいため、日々の積み重ねで徐々に狭くなってしまうのです。

下痢が続いてしまう原因

下痢もまた、胃ろうの方に頻繁に見られる悩みです。これには、栄養剤そのものの性質や、注入の方法が大きく関わっています。

私たちの胃腸は、本来、口から入った食べ物を咀嚼し、時間をかけて消化吸収します。しかし、液状の栄養剤が直接胃に入ると、通常の食事よりも通過スピードが速くなりがちです。その結果、小腸が急激な刺激を受け、水分を十分に吸収できないまま排出してしまうことで下痢が起こります。

また、栄養剤の温度が低すぎてお腹を冷やしてしまったり、栄養剤の成分や濃度(浸透圧)が患者様の体質に合っていなかったりすることも、下痢を引き起こす大きな要因となります。

「注入速度」を見直すだけで変わることがあります

下痢や嘔吐、あるいはお腹の張りといった不快な症状がある場合、最初に見直したいのが「栄養剤を注入する速度」です。これは特別な道具を変えなくてもすぐに試せる方法ですが、非常に重要なポイントです。

早すぎると下痢の原因に

ご家族や介護者の方にとって、栄養剤の注入には時間がかかるため、つい「少し早めに終わらせたい」と思ってしまうことがあるかもしれません。しかし、短時間で大量の液体栄養剤を胃に流し込むことは、胃腸にとって大きな負担となります。

急速に注入されると、胃が急激に引き伸ばされ、反射的に腸の動きが活発になりすぎて下痢を誘発することがあります。これを「ダンピング症候群」のような状態と呼ぶこともあります。また、胃で受け止めきれずに食道へ逆流し、嘔吐や誤嚥性肺炎の原因になるリスクも高まります。

もし現在、下痢が続いているようであれば、注入速度を今よりもゆっくりに設定してみてください。時間をかけて少しずつ胃に送ることで、腸への刺激が和らぎ、消化吸収がスムーズになることが期待できます。

適切な速度を見つけるためのポイント

適切な注入速度は、患者様のその日の体調や消化機能によって異なります。

一般的には、1時間に200mlから300ml程度の速度が良いとされていますが、下痢気味のときは、さらにゆっくりとした速度(例えば1時間に100ml程度)から開始し、様子を見ながら徐々に上げていく方法が推奨されます。

滴下筒(点滴の筒のような部分)から落ちる滴の速さを調整するクレンメ操作だけでは管理が難しい場合は、注入ポンプなどの機器を使用することで、一定の速度で安全に注入することが可能です。最適な速度については自己判断せず、医師や看護師に相談しながら、ご本人にとって一番楽なペースを見つけていきましょう。

栄養剤(製剤)の種類を変えるという選択肢

速度を調整しても症状が改善しない場合、あるいは頻繁にチューブが詰まってしまう場合には、使用している栄養剤(製剤)の種類を見直す時期かもしれません。現在は様々なタイプの製品が開発されています。

液体タイプと半固形タイプの違い

従来から使われているサラサラとした「液体タイプ」のほかに、最近ではプリン状やゼリー状の「半固形タイプ」の栄養剤が注目されています。

液体タイプは扱いやすい反面、胃から腸へ流れるスピードが速く、下痢を起こしやすいという特徴がありました。一方、半固形タイプは、口から食べる普通の食事に近い形状をしているため、胃の中に適度な時間留まります。これにより、生理的な消化活動が促され、下痢の改善につながることが多くの研究で報告されています。

また、半固形タイプは粘度があるため、胃食道逆流を防ぐ効果も期待できます。さらに、短時間での注入が可能になるケースもあり、介護をする方の時間的な拘束を減らせるというメリットもあります。ただし、カテーテルの太さや種類によっては使用できないこともあるため、導入には医師の判断が必要です。

お腹の調子に合わせた選び方

形状の違いだけでなく、成分にも注目してみましょう。

例えば、下痢が続く方には「食物繊維」や「オリゴ糖」が配合された栄養剤が適していることがあります。これらは腸内環境を整え、便の水分量を調節する働きを助けます。

逆に、消化機能が低下していて栄養が吸収されにくい方には、あらかじめ消化されやすい形に分解された「消化態栄養剤」という種類もあります。

「病院で処方されたものをずっと使っているから」と変えることを躊躇される方もいらっしゃいますが、体調や年齢とともに合う栄養剤は変化します。現在の症状に合わせて製剤を変更することで、トラブルが嘘のように落ち着くことも珍しくありません。

ご自宅での管理に不安があるときは

胃ろうの管理は毎日のことですから、少しでもトラブルがあると、患者様にとってもご家族にとっても大きなストレスになります。チューブの交換や皮膚のケア、そして今回お話ししたような注入調整など、医療的な判断が必要な場面も多々あります。

訪問診療医ができるサポート

こうした在宅療養中の不安を解消するのが、訪問診療クリニックの役割です。

私たち訪問診療医は、定期的にご自宅へ伺い、患者様の全身状態やお腹の動き、排便の状況などを細かく診察します。その上で、「今の速度は適切か」「栄養剤の種類を変えるべきか」「お薬の形状を変える必要があるか」といった専門的な判断を行い、具体的な調整プランを提案します。

また、管理栄養士と連携し、より専門的な栄養指導を行うことも可能です。病院への通院が大変な方でも、ご自宅にいながら専門的な医療サポートを受けていただけます。

些細な変化でも相談してください

「こんな小さなことで電話してもいいのかな」と遠慮されるご家族がいらっしゃいますが、決してそんなことはありません。下痢の回数が少し増えた、注入中に少し苦しそうな顔をする、チューブの汚れが気になるなど、日常の些細な変化こそが、トラブルを未然に防ぐ重要なサインです。

特に胃ろうのトラブルは、我慢して続けていると脱水症状や栄養状態の悪化、あるいは皮膚トラブルなど、より深刻な事態につながりかねません。早期に対処することで、患者様はより快適に過ごすことができ、ご家族の介護負担も軽減されます。

まとめ

胃ろうの詰まりや下痢は、決して「仕方がないこと」ではありません。注入速度をゆっくりにしたり、半固形化された栄養剤や成分の異なる製剤に変更したりすることで、安定した状態を取り戻せることが多くあります。

大切なのは、ご家庭だけで悩みを抱え込まず、医療のプロフェッショナルと一緒に解決策を探ることです。

ご本人らしく、穏やかな在宅生活を続けていくために、私たちがお手伝いできることはたくさんあります。現在の管理方法に少しでも不安や疑問を感じておられるなら、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。

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