訪問診療コラム

誤嚥性肺炎をくり返していた方—嚥下評価と食形態の見直しで入院ゼロが続いた

「熱が出たと思って病院に行ったら、また肺炎だった」

「退院して元気になったと思ったら、すぐまた誤嚥して逆戻り…」

ご家族の介護をされている中で、このような経験をされたことはありませんか?誤嚥性肺炎は、一度治っても再発しやすく、入退院を繰り返すことで患者様ご本人の体力も気力も奪われていってしまいます。

ご家族としても、「食事をあげるのが怖い」「もう口から食べるのは無理なのだろうか」と、不安や諦めの気持ちを抱えてしまうことも少なくありません。

しかし、誤嚥性肺炎を繰り返していた方でも、専門的な「飲み込みの評価」を行い、その方に合った「食事の形」に見直すことで、入退院の繰り返しから脱却し、ご自宅で穏やかに過ごせるようになるケースは多くあります。今回は、なぜ肺炎を繰り返してしまうのか、そして訪問診療でどのような対策ができるのかについて解説します。

なぜ誤嚥性肺炎を繰り返してしまうのか?

誤嚥性肺炎とは、本来食道を通って胃に入るはずの食べ物や唾液が、誤って気管に入り(誤嚥)、そこに含まれる細菌が肺で炎症を起こす病気です。

治療をして退院しても、またすぐに肺炎になってしまう。その原因の多くは、日常生活の中にある「ミスマッチ」にあります。

「飲み込む力」と「食事の内容」のズレ

年齢を重ねたり、脳梗塞などの病気の影響があったりすると、喉の筋力が落ち、飲み込む反応が遅れることがあります。ご本人の「飲み込む力」と、普段召し上がっている「食事の固さや大きさ、水分量」が合っていないと、誤嚥のリスクは高まります。

病院では管理された食事が提供されますが、自宅に戻った途端、以前と同じ食事に戻ってしまい、再発してしまうというケースは非常に多いのです。また、水分でむせることが多い場合、お茶や汁物にとろみをつける必要がありますが、その「とろみの濃さ」が適切でない場合もリスクになります。

見落とされがちな「隠れ誤嚥」

激しくむせたり、咳き込んだりすれば誤嚥したと気づけますが、実は怖いのが、むせないまま誤嚥してしまう「不顕性誤嚥」です。

喉の感覚が鈍くなっていると、食べ物が気管に入っても防御反応(咳)が出ないことがあります。また、食事中だけでなく、夜寝ている間に唾液が気管に流れ込んで肺炎を起こすこともあります。「食事の時は大丈夫そうに見えるのに、なぜか熱が出る」という場合は、この隠れ誤嚥が関係している可能性があります。

誤嚥を防ぐために見直したいポイント

入退院を繰り返さないためには、薬による治療だけでなく、日々の食事や環境の調整が不可欠です。ここでは、特によくある見直しポイントをご紹介します。

「刻み食」がかえって誤嚥を招くことも

「飲み込みにくいなら、細かく刻めばいい」と思われがちですが、実はこれが逆効果になることがあります。

パラパラとした刻み食は、口の中でまとまりにくく、喉の奥に散らばってしまいがちです。飲み込む力が弱っている方の場合、その散らばった粒が気管に入り込んでしまうことがあるのです。

そのような方には、食材を細かく刻むのではなく、柔らかく煮込んで少しとろみをつけたり、ゼリー状に固めたりする「まとまりのある形態」の方が、つるりと安全に飲み込め、誤嚥のリスクを下げられる場合があります。

食事中の「姿勢」と「環境」

何を食べるかだけでなく、「どう食べるか」も重要です。

例えば、リクライニングの角度が深すぎて顎が上がってしまっていると、気道が広がり誤嚥しやすくなります。逆に、少し顎を引くような姿勢をとるだけで、飲み込みやすくなることがあります。

また、テレビがついていると食事に集中できず、飲み込むタイミングがずれてしまうこともあります。ご自宅の椅子やベッドの環境に合わせて、最適な姿勢を整えることが大切です。

訪問診療だからできる「食べる楽しみ」のサポート

誤嚥性肺炎の予防は、単に「食べさせないこと」ではありません。食べることは生きる喜びであり、栄養状態を良くして免疫力を上げることにもつながります。訪問診療クリニックでは、医学的な管理と生活の質のバランスを大切にしています。

生活の場で行う実践的な「嚥下評価」

訪問診療の最大のメリットは、病院の診察室ではなく、患者様が実際に生活している場所で診察ができることです。

いつもの椅子に座り、いつもの食器を使って、実際に食事を召し上がる様子を医師が観察します。リラックスした環境でどのような姿勢で食べているか、一口の量は適切か、飲み込んだ後に喉に残留感はないかなどを丁寧に確認します。

実際の生活環境で評価を行うことで、より実践的で無理のない改善策を提案することができます。

医師・多職種によるチームケアとご家族への助言

訪問診療では、医師だけでなく、訪問看護師や、必要に応じて言語聴覚士(ST)、管理栄養士、歯科医師とも連携します。

「飲み込みのリハビリ」を行ったり、「口の中を清潔に保つケア(口腔ケア)」を徹底したりすることで、肺炎のリスクを多角的に減らしていきます。また、ご家族に対しても、「今日は少し疲れているようだから、食事は軽めにしましょう」「熱が出た時はこう対応しましょう」と、日々の具体的なアドバイスを行います。

介護をされるご家族にとって、毎食の介助は大きなプレッシャーかと思います。私たちが専門的な視点でサポートすることで、ご家族の心の負担を軽くすることも大切な役割だと考えています。

まとめ

誤嚥性肺炎を繰り返してしまう場合でも、そこで「口から食べる」ことを諦める必要はありません。専門家による適切な「嚥下評価」と、その方に合った「食形態や姿勢の見直し」を行うことで、入院することなく、住み慣れたご自宅で生活を続けられる可能性は十分にあります。

大切なご家族の食事や頻繁な入退院にお悩みでしたら、ぜひ一度、地域の訪問診療クリニックへご相談ください。

すみだ両国まちなかクリニックでも、患者様とご家族が安心して「食べる喜び」を感じられるよう、全力でサポートさせていただきます。お気軽にお問い合わせください。

外来WEB予約外来WEB予約
お問い合わせお問い合わせ
電話する電話する