訪問診療コラム

通院困難で薬が飲み切れなかった認知症—訪問で服薬支援し転倒が減った

認知症のご家族を介護されている方にとって、日々の「通院」と「お薬の管理」は非常に大きな負担ではないでしょうか。

「病院に連れて行くだけで半日仕事になってしまう」

「処方された薬をカレンダーに入れても、飲み忘れたり、飲みすぎたりしてしまう」

「最近、家の中で転ぶことが増えて心配だ」

このようなお悩みは、決してあなただけの悩みではありません。認知症の症状が進むにつれて、これまで当たり前にできていた通院や服薬が難しくなるのは、とても自然なことです。しかし、薬の管理がうまくいかないと、症状の悪化や思わぬ事故につながるリスクもあります。

今回は、通院が困難になり薬の管理ができなくなってしまった場合に、訪問診療へ切り替えることでどのように生活が変化するのか、その仕組みとメリットについて解説します。薬の飲み残しや転倒にお悩みのご家族やケアマネジャーの方の参考になれば幸いです。

「通院できない」「薬が飲めない」は生活を崩すサイン

認知症の患者様にとって、住み慣れた自宅を離れて病院へ行くという行為は、私たちが想像する以上にストレスのかかることです。待合室のざわめきや長い待ち時間に混乱し、診察室に入るころにはぐったりと疲れてしまうことも少なくありません。

また、ご家族にとっても、仕事を休んで付き添ったり、嫌がるご本人をなだめて連れ出したりすることは、精神的にも肉体的にも限界に近い苦労があることでしょう。

薬の管理が難しくなるリスク

通院の苦労と並んで深刻なのが、ご自宅での「服薬管理」です。認知症の症状として、記憶障害や判断力の低下が現れると、薬を飲んだこと自体を忘れてしまったり、薬の袋を開ける手順が分からなくなったりすることがあります。

その結果、以下のような問題が起こりやすくなります。

  • 飲み忘れによる症状の悪化:本来効くはずの薬が体内に入らず、認知症の周辺症状(怒りっぽくなる、不安になるなど)や、持病(高血圧や糖尿病など)が悪化してしまう。
  • 過剰摂取や飲み間違い:飲んだことを忘れて何度も飲んでしまい、薬が効きすぎてしまう。
  • 大量の残薬(飲み残し):家中のあちこちから、飲んでいなかった古い薬が出てくる。

薬の副作用と転倒の関係

特に注意が必要なのが、薬の副作用による「転倒」です。高齢の患者様は、複数の医療機関から何種類もの薬を処方されているケースが珍しくありません。これを「多剤併用(ポリファーマシー)」と呼びますが、飲み合わせや体調によっては、薬が効きすぎて血圧が下がりすぎたり、ふらつきや眠気が生じたりすることがあります。

「最近よく転ぶようになった」という場合、単に足腰が弱ったからだけではなく、実は薬のコントロールがうまくいっていないことが原因であるケースも多いのです。

訪問診療だからできる「生活に寄り添う服薬支援」

通院が困難になり、服薬管理に限界を感じたときに検討していただきたいのが「訪問診療」です。訪問診療は、医師が定期的にご自宅へ伺って診察を行いますが、単に診察室が自宅になっただけではありません。

生活の場であるご自宅に入るからこそ、患者様が「なぜ薬を飲めないのか」「どのような環境なら飲めるのか」を具体的に把握し、対策を立てることができるのです。

自宅の環境に合わせた工夫

診察室では「薬は飲めていますか?」という医師の問いに、ご本人が「はい、飲んでいます」と答えることがあります。しかし、実際にご自宅を訪問してみると、テーブルの下や引き出しの奥から大量の飲み残しが見つかる、という場面に私たちはよく遭遇します。

訪問診療では、実際の生活環境を見ながら、以下のような工夫を行います。

  • ご本人がいつも座る場所や、目につきやすい場所に薬を配置する。
  • 指先が動きにくい方には、薬局と連携して袋を開けやすくしたり、一包化(1回分を一つの袋にまとめること)したりする。
  • カレンダーの日付が認識しづらい場合は、日付ではなく「朝・昼・夕」のボックスで管理する。

医師・薬剤師・看護師のチーム連携

訪問診療クリニックは、医師だけでなく、訪問看護師や調剤薬局の薬剤師、ケアマネジャーと密に連携を取っています。

例えば、医師が「今の状態にはこの薬が必要」と判断しても、ご本人がどうしても飲めない形状であれば、薬剤師に相談してシロップ剤や貼り薬への変更を検討します。また、訪問看護師が週に数回訪問し、薬カレンダーへのセットや飲み込みの確認を行うことで、確実に服薬できる体制を整えます。

このように、医療チーム全体で患者様の「飲む力」を支えるのが、訪問診療の大きな強みです。適切な服薬管理ができるようになれば、薬の効きすぎによるふらつきも防げ、結果として転倒リスクの軽減にもつながります。

介護の不安を一人で抱え込まないでください

認知症の介護において、「薬を飲ませなければ」というプレッシャーは、ご家族にとって大きな重荷になりがちです。しかし、飲み忘れや拒薬は、ご本人のわがままではなく、病気の症状や環境、薬の種類が合っていないことが原因かもしれません。

「病院に行けないから仕方がない」

「薬を飲んでくれないのは自分の介護不足だ」

どうかご自身を責めたり、諦めたりしないでください。通院が難しくなったときこそ、医療の側から患者様の生活に入り込み、支えるタイミングです。

まずは相談することが解決への第一歩

訪問診療は、単に薬を処方するだけの場所ではありません。患者様がご自宅でその人らしく、穏やかに過ごせるように、生活全体を見守り、ご家族の介護負担を和らげるパートナーでもあります。

「薬の管理ができなくて困っている」

「家で転ぶことが増えて不安だ」

「これからの療養生活について相談したい」

もし今、このような不安をお持ちでしたら、まずは一度私たちにご相談ください。すみだ両国まちなかクリニックでは、患者様お一人おひとりの生活背景を大切にし、ご家族の皆様と一緒に、一番良い方法を考えていきます。

どんなに些細なことでも構いません。皆様からのご相談をお待ちしております。

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