せん妄・夜間の混乱
「急に性格が変わったように怒り出す」「夜中に大きな声を出す」「家族の顔が分からなくなる」。ご家族にとって、愛する方のこうした変化は、身体的な介護以上に精神的な負担が大きいものです。「このまま家で診られるのだろうか」という不安や、夜も眠れない疲労感は、決してあなただけのものではありません。
当院では、患者様ご本人の辛さを和らげることはもちろん、ご家族が安心して休息を取れる環境作りを大切にしています。訪問診療のご相談は、HPからのお問い合わせの他、直接、医師に話したいという方や、通院負担の移行を迷っている方向けに外来でのご相談も承っております。
訪問診療を検討すべき主な症状・状態
せん妄や夜間の混乱は、認知症の進行だけでなく、身体的な不調(感染症、脱水、薬剤の影響など)や環境の変化が引き金となって「急激」に起こることが特徴です。通院のために連れ出すこと自体が患者様の興奮を招き、ご家族の大きな負担となる場合、訪問診療による住み慣れた環境での管理が推奨されます。
以下のような疾患や状態にある方は、せん妄や夜間の混乱を起こすリスクが高く、在宅での医学的管理が必要です。
| 状態の分類 | 具体的な症状・状態 | 関連疾患 |
| がん・緩和ケア | 終末期特有の身の置き所のなさ、意識の変容、疼痛による不穏 | 肺がん、胃がん、大腸がん、食道がん、膵臓がん、肝臓・胆道がん、乳がん、前立腺がん、婦人科系がん、血液のがん・脳腫瘍など |
| 認知症・精神疾患 | 夜間不眠、暴言・暴力、徘徊、幻覚・妄想、感情の不安定さ | 認知症(行動・心理症状ふくむ)、脳卒中後遺症(片麻痺・嚥下障害など)、パーキンソン病/パーキンソン症候群、うつ病、統合失調症 |
| 慢性臓器不全・内科疾患 | 呼吸苦や心不全による不眠・不安、代謝異常による意識障害 | 慢性呼吸不全/COPD(肺気腫)、気管支喘息(通院困難な方)、慢性心不全、心房細動など抗凝固療法の在宅管理、高血圧・脂質異常症の在宅管理、糖尿病(内服・インスリン管理)、慢性腎臓病(保存期の在宅管理)、肝硬変・腹水管理 |
| 医療処置・栄養管理 | カテーテル等の違和感による自己抜去、誤嚥リスクによる不安 | 誤嚥性肺炎をくり返す、胃ろう・経管栄養の管理、中心静脈栄養(ポート/IVH)の管理、留置カテーテル・膀胱瘻の管理、ストーマ(人工肛門・人工膀胱)のトラブルケア |
| 神経難病・その他 | 意思疎通困難によるストレス、身体拘束感による不穏 | ALSなど神経難病、起立性調節障害(OD) |
訪問診療で対応可能な医療処置・管理
せん妄や夜間の混乱に対しては、単に鎮静させるのではなく、背景にある原因(痛み、便秘、尿閉、脱水、感染症など)を探り、取り除くことが最優先です。
ご自宅では、内服薬や貼り薬による睡眠リズムの調整、不穏時のレスキュー薬の処方、点滴による脱水補正などを行います。また、ご家族への接し方のアドバイスや、転倒予防のための環境調整も行います。
自宅で実施可能な基本的な診療・検査
医師が定期的に訪問し、診察(バイタル測定、心音・呼吸音確認)を行います。必要に応じて、血液検査(炎症反応や電解質異常の確認)、尿検査(尿路感染症の確認)、心電図検査などを実施し、せん妄の誘引となる身体的異常がないかをチェックします。
在宅療養を始めるためのサポート体制
せん妄のケアには、医療と介護の緊密な連携が不可欠です。当院は、地域の基幹病院と連携し、急激な症状悪化時にはスムーズな入院調整を行います。また、ケアマネジャーや訪問看護師と常に情報を共有し、ヘルパーの導入やショートステイの活用など、ご家族の介護負担を軽減する体制を整えます。
介護保険サービスの「居宅療養管理指導」を活用することで、医師や薬剤師が専門的な視点から療養上の指導・助言を行い、医療と介護が一体となって生活を支えます。
早めの相談・検討が重要な理由(訪問診療のメリット)
せん妄は早期に対応しなければ、転倒骨折や誤嚥性肺炎などの重大な事故につながる恐れがあります。
1. 原因の早期発見と重症化予防
定期的な訪問診療により、せん妄の引き金となる脱水や感染症、薬剤の副作用などを早期に発見・治療できます。これにより、症状の悪化や緊急入院のリスクを減らすことができます。
2. 生活リズムの改善とご家族の負担軽減
患者様の生活習慣や環境に合わせた投薬調整を行うことで、夜間の良眠を促し、昼夜逆転を改善します。ご家族が夜間にしっかりと休息を取れるようになることは、在宅療養を長く続ける上で極めて重要です。
3. 住み慣れた環境による安心感
入院や通院という環境変化は、認知機能の低下や混乱を招きやすい要因です。住み慣れた自宅で、馴染みのある人や物に囲まれて過ごすこと自体が、精神的な安定とQOL(生活の質)の向上につながります。
ご相談方法と診療開始までの流れ
当院は、墨田区、江東区、台東区、中央区、荒川区、江戸川区、千代田区を中心に訪問診療を提供しております。その他のエリアについても、患者様の状況やご希望に応じて対応可能な場合もございますので、個別にご相談ください。
① 外来でご相談いただく場合の流れ
訪問診療に迷っている方や、症状の相談をご希望の方は外来受診をご利用ください。
- 予約・受付: 電話またはWebで予約後、受付で症状と保険証を確認します。
- 診察・相談: 医師が症状について問診・診察を行います。
- 今後の治療方針検討: 診察結果に基づき、外来継続か訪問診療への移行かを患者様・ご家族と検討します。
② 訪問診療を希望する場合の流れ
通院困難な方、終末期で在宅緩和ケアを希望される方は訪問診療をご検討ください。
- お問い合わせ(HPフォーム/電話): 現在の症状についてご相談ください。
- 事前面談(情報共有・病状確認): 訪問診療の適応確認と病状を詳しく伺うための面談(初回訪問)を行います。
- 診療開始: 診療計画を立案後、定期的な医師の訪問診療を開始します。
せん妄・夜間の混乱でお悩みなら、まずご相談ください
「夜が来るのが怖い」と感じていませんか。せん妄や夜間の混乱は、適切な医療介入と環境調整で落ち着くことが多くあります。ご本人らしい穏やかな時間を取り戻すために、私たちがお手伝いします。一人で抱え込まず、まずは一度ご相談ください。

