訪問診療コラム

息切れで外出を諦めていたCOPD—在宅酸素と吸入指導で散歩を再開できた

「少し歩くだけで息が切れてしまう」「外出するのが怖くなり、家に閉じこもりがちになった」

COPD(慢性閉塞性肺疾患)を患う患者様や、それを支えるご家族から、このような悩みをよく伺います。息苦しさから体を動かすことを避けるようになり、その結果、筋力が落ちて余計に動けなくなってしまう。そんな悪循環に苦しんでいる方は少なくありません。

しかし、適切な治療とサポートを自宅で受けられる環境が整えば、諦めていた「自分らしい生活」を取り戻せる可能性があります。

この記事では、通院が困難になったCOPDの患者様が、訪問診療による在宅酸素療法や吸入指導を通じて、どのように生活の質を改善し、再び散歩などを楽しめるようになるのかについて解説します。

「動くと苦しい」から「動かない」への悪循環

COPDは、長年の喫煙などが原因で肺に炎症が起き、空気が通りにくくなる病気です。「肺の生活習慣病」とも呼ばれ、主な症状として、咳や痰、そして体を動かしたときの息切れが挙げられます。

なぜ外出がおっくうになるのか

健康な状態であれば何でもないような動作、例えば階段の上り下りや、少し早足で歩くといった動作でも、COPDの患者様にとってはマラソンをした後のような激しい息切れを感じることがあります。

この苦しさは、患者様に強い不安を与えます。「また苦しくなるのではないか」「出先で動けなくなったらどうしよう」という恐怖心から、次第に外出を控え、自宅の中で座っている時間が長くなりがちです。

通院自体が大きな負担に

さらに、定期的な通院そのものが重労働になります。病院までの移動、待合室での待ち時間、薬局での受け取り。これらすべてが体に負担をかけ、通院のたびに疲弊してしまう方もいらっしゃいます。

通院がしんどいからといって受診を中断したり、無理をして症状が悪化したりすることは避けなければなりません。そこで選択肢となるのが、医師や看護師が自宅へ伺う「訪問診療」です。

在宅酸素療法(HOT)が広げる生活の可能性

COPDが進行し、呼吸機能が低下してくると、体の中に十分な酸素を取り込めなくなります。この状態を改善するために用いられるのが「在宅酸素療法(HOT)」です。

酸素吸入への誤解と不安

「酸素を吸うようになると、もう寝たきりということでしょうか?」

「機械につながれて、家から一歩も出られなくなるのでは?」

導入を提案すると、このような不安を抱く患者様やご家族が多くいらっしゃいます。しかし、実際はその逆であることがほとんどです。在宅酸素療法は、寝たきりになるためのものではなく、「より活動的に過ごすため」の治療法です。

足りない酸素を補って体を楽にする

自宅に設置した酸素濃縮装置から、鼻に通したチューブ(カニューラ)を通じて酸素を吸入します。不足している酸素を補うことで、心臓や肺への負担が減り、息切れが軽減されます。

息苦しさが和らぐと、食事や着替え、入浴といった日常生活の動作が驚くほど楽になります。また、外出時には携帯用の酸素ボンベを使用することで、これまで通り、あるいはこれまで以上に安心して外に出ることができるようになります。

適切な酸素量を医師が管理し、定期的に訪問して体調を確認することで、安心して療養生活を続けていただけます。

効果を最大限に引き出す「正しい吸入指導」

COPDの治療において、在宅酸素と並んで非常に重要なのが「吸入薬」です。気管支を広げて空気の通りを良くするための薬ですが、実は「正しく使えていない」ケースが非常に多いのをご存知でしょうか。

薬が効かないと感じる原因

「毎日薬を使っているのに、あまり息切れが良くならない」

そう感じている場合、薬の効果そのものではなく、吸入の手技に問題があることがよくあります。吸入薬には様々な種類があり、器具ごとに操作方法や吸い込むタイミング、吸い込む強さが異なります。

通院時の短い診察時間だけでは、正しい使い方が身についていないまま、なんとなく使い続けてしまっていることが少なくありません。吸入がうまくできていないと、薬が気管支まで届かず、口の中に残ってしまい、十分な効果が得られないのです。

訪問診療ならではのきめ細やかなサポート

訪問診療では、ご自宅というリラックスした環境で、実際の生活動作に合わせて吸入指導を行うことができます。

ご高齢の方や、指先の力が弱くなっている方の場合、器具の操作自体が難しいこともあります。そのような場合は、ご本人が使いやすい種類の薬に変更したり、ご家族や介護スタッフへのサポート方法をお伝えしたりするなど、柔軟な対応が可能です。

正しく薬が吸えるようになると、呼吸機能の改善が数値としても表れ、体感的にも「息がしやすくなった」と実感される方が多くいらっしゃいます。

諦めていた「散歩」を目標に

呼吸が楽になり、体の調子が整ってくると、気持ちにも変化が現れます。

「また歩きたい」という意欲を支える

息切れの不安が減ると、「少し庭に出てみようか」「近くのコンビニまで行ってみようか」という意欲が湧いてきます。

私たちは、単に病気を診るだけでなく、患者様が「何をしたいか」「どんな生活を送りたいか」を大切にしています。もし「散歩を再開したい」という目標があれば、それに向けた具体的な計画を一緒に考えます。

例えば、リハビリ専門職と連携して、室内でできる簡単な運動から始め、徐々に体力をつけていくことも可能です。酸素ボンベを持っての外出方法や、苦しくなった時の呼吸法(口すぼめ呼吸など)も丁寧に指導します。

ご家族の不安も一緒に解消

外出を再開することは、ご家族にとっても喜びである反面、「もし何かあったら」という心配の種でもあります。

訪問診療クリニックは、24時間365日の連絡体制を整えていることが一般的です。夜間や休日であっても、体調の急変や酸素機器のトラブルなどについて相談できる窓口があることは、在宅療養を続ける上で大きな安心材料となります。

患者様ご本人だけでなく、支えるご家族の不安にも寄り添い、安心して生活できる環境を整えることが私たちの役割です。

まとめ

息切れで外出を諦めていたとしても、適切な医療的介入によって、生活の範囲を再び広げられる可能性があります。

COPDの在宅療養においては、「在宅酸素療法による呼吸のサポート」と「正しい吸入薬の使用」、そして「定期的な診察による安心感」が鍵となります。これらが組み合わさることで、苦痛が和らぎ、散歩などの楽しみを再開できたケースは数多くあります。

「もう年だから仕方がない」「通院がつらいから我慢するしかない」と諦めてしまう前に、ぜひ一度、在宅医療という選択肢を検討してみてください。

すみだ両国まちなかクリニックでは、患者様一人ひとりの生活スタイルに合わせた診療を行っています。ご本人様はもちろん、ご家族様やケアマネジャー様からのご相談もお待ちしております。どうぞお気軽にお問い合わせください。

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