皮膚の傷・褥瘡が治りにくい
ご自宅で療養されている中で、「床ずれ(褥瘡)がなかなか治らない」「傷口から膿が出ている」「通院のために身体を動かすことが辛い」といったお悩みはありませんか?
皮膚のトラブルは、痛みだけでなく感染症のリスクも伴い、患者様ご本人の苦痛はもちろん、処置をされるご家族にとっても大きな不安の種となります。当院では、HPからのお問い合わせの他、まずは直接医師に話したいという方や、通院から訪問診療への移行を迷っている方向けに、外来でのご相談も承っております。お一人で抱え込まず、まずは専門家へご相談ください。
訪問診療を検討すべき主な症状・状態
皮膚の傷や褥瘡(床ずれ)は、初期段階での適切な対応が非常に重要です。しかし、通院が困難な方にとって、定期的な皮膚科受診は大きな負担となり、その移動自体が傷を悪化させる原因になることもあります。
以下のような状態が見られる場合や、通院が困難な状況にある場合は、訪問診療による在宅での管理を検討するタイミングといえます。
- 褥瘡(床ずれ)が悪化している:赤みが消えない初期段階から、皮膚がめくれて深くなっている、黒い壊死組織がある、骨が見えているような重度な状態まで。
- 傷口から異臭や浸出液(膿など)がある:感染を起こしている可能性があり、抗生物質の投与や専門的な処置が必要です。
- 糖尿病による足の病変(糖尿病性足病変)がある:感覚が鈍くなっているため気づかないうちに傷が悪化しやすく、壊疽(えそ)に至るリスクがあります。
- ご自身での体位変換が困難で、長時間同じ姿勢でいる:寝たきりや車椅子での生活が長く、除圧(圧力を逃がすこと)が十分にできていない場合。
- 栄養状態が悪く、皮膚が弱くなっている:食事が十分にとれず痩せてしまい、骨の突出部分が皮膚を圧迫している場合。
- 浮腫(むくみ)が強く、皮膚から水が染み出している:心不全や腎不全などに伴う浮腫により、皮膚が裂けやすくなっている状態。
- 通院介助の負担が大きく、頻繁な受診が難しい:家族が高齢、エレベーターがない、介護タクシーの手配が困難など。
皮膚トラブルや褥瘡は、単なる皮膚の病気ではなく、全身状態や基礎疾患と深く関わっています。訪問診療では、傷の処置だけでなく、原因となっている全身疾患の管理も並行して行います。
| 状態の分類 | 具体的な症状・状態 | 関連疾患 |
| がん(緩和ケア・看取り) | 終末期における栄養状態低下による皮膚の脆弱化、浮腫、長時間の臥床による褥瘡リスク、腫瘍自体の皮膚浸潤など。 | 肺がん、胃がん、大腸がん、食道がん、膵臓がん、肝臓・胆道がん、乳がん、前立腺がん、婦人科系がん、血液のがん・脳腫瘍など |
| 呼吸器・循環器疾患 | 在宅酸素療法や呼吸困難による活動量低下、心不全による強い浮腫、血流不全による創傷治癒遅延など。 | 慢性呼吸不全/COPD(肺気腫)、気管支喘息(通院困難な方)、慢性心不全、心房細動など抗凝固療法の在宅管理、高血圧・脂質異常症の在宅管理 |
| 代謝・消化器・腎疾患 | 高血糖による易感染性・治癒遅延、透析や腎不全による掻痒感・皮膚乾燥、肝硬変による腹水・浮腫・低栄養状態など。 | 糖尿病(内服・インスリン管理)、慢性腎臓病(保存期の在宅管理)、肝硬変・腹水管理 |
| 神経・筋疾患 | 麻痺や拘縮による体位変換困難、感覚障害による痛みへの気づきの遅れ、嚥下障害に伴う低栄養など。 | 脳卒中後遺症(片麻痺・嚥下障害など)、パーキンソン病/パーキンソン症候群、ALSなど神経難病 |
| 認知症・精神疾患 | 痛みや不快感を訴えられない、処置への拒否、安静保持が困難、不潔行為による皮膚トラブルなど。 | 認知症(行動・心理症状ふくむ)、うつ病、統合失調症 |
| 処置・管理が必要な状態 | 栄養状態改善のための経管栄養管理、排泄物による皮膚汚染対策としてのストーマやカテーテル管理など。 | 胃ろう・経管栄養の管理、中心静脈栄養(ポート/IVH)の管理、留置カテーテル・膀胱瘻の管理、ストーマ(人工肛門・人工膀胱)のトラブルケア |
| 小児・若年者の疾患 | 発達特性による感覚過敏やこだわり行動に伴う皮膚トラブル、長期療養に伴う活動制限など。 | 起立性調節障害(OD)、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、摂食障害(神経性やせ症・過食症)など |
訪問診療で対応可能な医療処置・管理
訪問診療では、病院の外来と同様に、医師が定期的に自宅を訪問し、傷の状態に合わせた専門的な処置を行います。患者様の生活環境に合わせた無理のないケア方法を提案できるのが強みです。
褥瘡(床ずれ)・創傷の専門処置
- デブリードマン(壊死組織の除去):傷の治りを妨げる壊死した組織(黒色や黄色の組織)を、ベッドサイドで可能な範囲で切除・除去し、健康な肉芽の形成を促します。
- 外用薬(軟膏)の処方・塗布:傷の状態(感染期、肉芽形成期、上皮化期など)に合わせて、最適な軟膏を選択・処方します。
- ドレッシング材(被覆材)の使用:傷口を保護し、治癒に適した湿潤環境を保つための特殊な被覆材を使用します。
- 圧迫の解除(除圧)の指導:褥瘡の最大原因である「圧迫」を取り除くため、体位変換のポジショニング指導や、エアマットなどの福祉用具選定のアドバイスを行います。
感染コントロール
- 細菌培養検査:傷口から菌を採取し、感染の原因菌を特定します。
- 抗生物質の投与:感染が見られる場合、内服薬や点滴による抗生物質投与を行い、敗血症などの重症化を防ぎます。
栄養管理・全身状態の改善
- 栄養指導・補助食品の提案:傷を治すためにはタンパク質などの栄養が不可欠です。食事形態の工夫や高栄養食品の活用を指導します。
- 血糖コントロール:糖尿病がある場合、血糖値を適切に管理することで傷の治りやすさを改善します。
自宅で実施可能な基本的な診療・検査
- 定期的な診察とバイタルチェック:血圧、脈拍、体温、酸素飽和度などを測定し、全身状態を把握します。
- 血液検査・尿検査:栄養状態(アルブミン値など)、炎症反応、腎機能、貧血の有無などを定期的にチェックします。
- 処方箋の発行:痛み止め、抗生剤、軟膏など、必要な薬剤を処方します。お薬は薬局が配達することも可能です。
- 点滴・注射:脱水時の補液や、必要な薬剤の投与を行います。
在宅療養を始めるためのサポート体制
皮膚の傷や褥瘡を治すためには、医師の治療だけでなく、日々のケア環境を整えることが非常に重要です。当院では、地域の医療・介護スタッフと密に連携し、チームで患者様を支えます。
特に重要なのが訪問看護師との連携です。医師の指示に基づき、看護師が頻繁に訪問して傷の処置(洗浄・軟膏塗布・ガーゼ交換)を行うことで、清潔な環境を保ちます。また、ケアマネジャーとは、適切な福祉用具(体圧分散マットレスや車椅子クッションなど)の選定や、ヘルパーによる体位変換のスケジュール調整について協力し合います。
さらに、医師や歯科医師、薬剤師などが患者様の居宅を訪問して療養上の管理や指導を行う「居宅療養管理指導」という介護保険サービスがあります。当院もこのサービスを提供しており、医学的な観点からケアプランへの助言を行い、医療と介護が一体となった切れ目のない支援を実現します。これにより、ご家族の介護負担を軽減しつつ、安心して在宅療養を継続できる体制を整えます。
早めの相談・検討が重要な理由(訪問診療のメリット)
1. 重症化および感染症の予防
褥瘡や皮膚の傷は、発見が遅れると急速に悪化し、皮下組織や筋肉、骨にまで達することがあります。最悪の場合、骨髄炎や敗血症といった命に関わる重篤な感染症を引き起こし、入院手術が必要になることもあります。
訪問診療による定期的な観察があれば、小さな変化(発赤や皮膚の剥離など)を早期に発見し、即座に治療介入することで重症化を防ぐことができます。
2. 通院負担の解消による安静の確保
傷の治療には、患部への刺激を避け、安静を保つことが大切です。しかし、通院のための移動(車椅子への移乗、車両での振動、待合室での座位など)は、患部を圧迫し、治癒を妨げる大きな要因となります。
訪問診療であれば、ご自宅のベッドでリラックスした状態で診察・処置を受けられるため、患部への負担を最小限に抑え、治療に専念できる環境が整います。
3. 生活環境に即した実践的なケア指導
病院での処置とは異なり、訪問診療では実際に患者様が過ごしている寝室やベッドの状況を確認できます。「普段どのような姿勢で寝ているか」「オムツ交換の手順に無理がないか」などを医師が直接見ることで、ご家庭ごとの事情に合わせた具体的で実践的なアドバイスが可能になります。ご家族にとっても、自宅にある物品を使った処置方法をその場で学べるため、日々のケアへの不安が軽減し、QOL(生活の質)の向上につながります。
ご相談方法と診療開始までの流れ
当院は、墨田区、江東区、台東区、中央区、荒川区、江戸川区、千代田区を中心に訪問診療を提供しております。その他のエリアについても、患者様の状況やご希望に応じて対応可能な場合もございますので、個別にご相談ください。
① 外来でご相談いただく場合の流れ
訪問診療に迷っている方や、症状の相談をご希望の方は外来受診をご利用ください。
- 予約・受付: 電話またはWebで予約後、受付で症状と保険証を確認します。
- 診察・相談: 医師が症状について問診・診察を行います。
- 今後の治療方針検討: 診察結果に基づき、外来継続か訪問診療への移行かを患者様・ご家族と検討します。
② 訪問診療を希望する場合の流れ
通院困難な方、終末期で在宅緩和ケアを希望される方は訪問診療をご検討ください。
- お問い合わせ(HPフォーム/電話): 現在の症状についてご相談ください。
- 事前面談(情報共有・病状確認): 訪問診療の適応確認と病状を詳しく伺うための面談(初回訪問)を行います。
- 診療開始: 診療計画を立案後、定期的な医師の訪問診療を開始します。
皮膚の傷・褥瘡でお悩みなら、まずご相談ください
「傷が治らない」「自宅での処置が不安」というお悩みは、決して一人で抱え込まないでください。適切な医療とケア環境を整えることで、傷の改善とご本人・ご家族の安心を取り戻すことができます。
当院は、患者様が住み慣れたご自宅で穏やかに過ごせるよう、全力でサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。

